気まずそうな顔をした瞬が、星矢たちの前に姿を現したのは、それから30分後。

その横には、氷河が、いつにないポーカーフェイスで付き添っている。
氷河の方は、仲間たちに情事の現場を見られてしまったことに、瞬ほど困って・・・はいないようだった。


「あの……星矢……」
ふてくさった態度で一人掛けのソファに腰掛けている星矢に、瞬が恐る恐る声をかける。
『話がある』と言って、瞬たちをこの場に呼びつけたのは星矢の方だったのだが、瞬は星矢からの応答をもらうことはできなかった。

少しばかり──否、盛大に──気後れしている瞬の肩に、氷河が手を置く。
その仕草が、異様なほどに自然である。
氷河と瞬にそんな様子を見せられてしまった紫龍は、実に複雑な気分になった。

「星矢……あの……」
瞬がもう一度、ソファにふんぞりかえっている星矢の名を呼ぶ。
多分に虚勢を張りつつ──憤懣やるかたない といった調子で、星矢はやっと重い口を開いた。

「いいけどよ! 別に宣伝してまわるようなことでもねーし! でも、わざと喧嘩して、仲悪い振りして隠すよーなことでもねーだろ! なんで、そんなことして俺たちを騙さなきゃなんないんだよ!」

星矢の怒りの理由はそこにあった。
氷河と瞬が“仲よし”だということ自体は、楽しい夏休みを希求する星矢にとっては、むしろ喜ばしいことだったのだ。

「だ……騙してたわけじゃないよ!」
瞬が慌てて、星矢の言を否定する。
しかし、これは、言葉だけの否定で納得できるようなことではなかった。
「じゃあ、何なんだよ! おまえら、今まで本気で喧嘩してたわけじゃないんだろ!」
「本気じゃないけど、嘘でもなくて……」

困ったように口ごもってから、ひとつ吐息して、瞬は、自分たちが結果的に仲間たちをたばかることになってしまった経緯を、小さな声で語り始めたのである。






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