彼等が氷河の自宅マンションに辿り着いたのは、それから更に40分後。
時刻は4時過ぎ。ほとんど早朝と言っていい時刻だった。

辿り着いたはいいが、氷河の住む豪勢なマンションは、へたなオフィスビルよりセキュリティ・システムが充実しており、エントランスホールから先に進むことができない。
どうすれば瞬の安否を確認できるのかと、さしもの先崎が考えあぐね始めた時、ふいにホールの正面奥にあったエントランスドアが音もなく開いた。
そこから並んで出てきたのは、某総合企画会社の二人の若い代表取締役社長である。

「ボ……ボス、ご無事で〜っっ!」
「ご……後藤君……? 先崎さんまで……?」
瞬の隣りに氷河の姿がなかったなら、後藤は瞬に泣きついてしまっていたかもしれない。
彼の横には先崎もいたので、あいにく彼はそうすることはできなかったが。
瞬は瞬で、思いがけない場所で出会った部下たちの前で、言葉を失ってしまっていた。

「──瞬、おまえの部下か」
「うん……」
氷河に尋ねられた瞬が、驚きを消し去れずにいるていで、微かに頷く。

「ゆ……夕べ、ボスがこいつの車に無理矢理押し込められるのを見て、俺……俺……」
とりあえず五体は無事らしい瞬の姿を見て、後藤が泣きべそをかく。
先崎は、彼の後ろで、後輩の醜態に呆れかえっていた。

「まさか、それで心配して、捜してくれてたの? もしかして、一晩中?」
「だって、相手はライバル会社のボスだし、先崎先輩の携帯に脅迫されてるみたいな会話が入ってて、俺、もう気が気じゃなかったんっすよぉー」
「脅迫……?」

「これです」
先崎が、自分の携帯電話を取り出して、瞬の前で録音再生ボタンを押してみせる。
その内容を聞かされて、瞬は耳まで真っ赤になった。

「こいつに何かひどいことをされたんじゃないでしょうね」
「あ……あの……」
後藤とは対照的に落ち着いた様子で、先崎は瞬に尋ねた。
答えに窮した瞬の代わりに、氷河が先崎に答える。
「ひどいことをされたのは、俺の方だ。散々焦らされたあげく、あれこれご機嫌を取ってやらないと、やらせてももらえない」

「氷河……!」
宿命のライバルの名を、咎めるように呼んだ瞬は、しかし、すぐに、その口調をどこか親しげなものに変えた。
「氷河、今夜、時間とれる?」
「10時以降なら」
「じゃあ、グラード・コンチネンタルホテルに、僕の名前で小会議室をとっておくから、10時半に来て」

氷河の首肯を確認してから、瞬は、今度は、拉致された上司を一晩中捜し続けてくれていた二人の部下の方に向き直った。
「君たちも来てくれる?」
「はあ……」

犬猿の仲のはずの2人の妙に親密なやりとりに、後藤はただ違和感を抱くことしかできずにいた。






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