与えているのか奪っているのかの区別もつかなくなるほど一つになってから、僕たちは、元の二人の人間に戻った。 それから、乱れた布団の上に、両手で身体を支えるようにして、僕は上体を起こした。 「ここはどこ。僕はどうしてこんなところにいるの」 その部屋は8畳ほどの広さの和室だった。 まだ青味の残る畳の上に寝具が敷かれている他には、家具らしい家具もない。 床の間に、申し訳程度の一幅の水墨画、使われたこともないような脇息、そして和紙張りの床に置くタイプの室内灯が一つ。 ここが仲間たちと起居していた城戸邸でないことくらいしか、僕にはわからない。 外ではまだ、風が──どうやら、庭に小さな竹林があるらしい──ざわざわと不吉な音を響かせていた。 「牢獄……かな」 竹のざわめきに紛れ込むような響きの氷河の声が、呟くように言う。 驚いた僕が、身体を捩じるようにして氷河の顔を覗き込むと──氷河はまだ、僕の隣りで仰臥していた──彼はその右の手で僕の頬に触れてきた。 「闘いばかりの日々に、おまえは疲れて──精神的にまいって、一時的に錯乱──いや、自失か──していたんだ。静かなところでの療養が必要だと医者に言われた沙織さんが、この家で暮らせるように手配してくれた。ここは、以前城戸翁が使っていた屋敷だそうだ。城戸の別荘みたいなもんだな」 氷河の言葉を、僕はあまり実感を伴わずに聞いていた。 ぼんやりと、そういうこともあり得るのかもしれない、と思った。 確かに、僕は、闘うことに疲れていたから。 ──でも、僕が闘っていたものは、いったい何だったんだろう? 僕は、肝心のことを思い出せなかった。 でも、それは徐々に思い出せるようになるだろう──と、自分に言い聞かせる。 「療養って、こんなことするものなの」 氷河の愛撫の跡の残る身体を隠すように、乱れた浴衣の襟と裾を直し、僕は崩れていた膝を揃えた。 氷河との交合の直後で、まだ僕の身体の中心は鈍い痛みを感じていたけれど、ちょっと無理をして。 氷河からの返事はない。 僕は慌てて言葉を継いだ。 「あ、責めてるんじゃなくて……。じゃあ、僕の療養についてきてくれたの。ありがとう」 多分、氷河が僕を好きで、僕が氷河を好きだったから。 ただそれだけの理由で、氷河は今、ここに僕と一緒にいてくれるに違いない。 僕は、ひどく氷河にすまないような気持ちになった。 「なんだか……頭がぼんやりしてるんだ。でも、そのうちに思い出すと思うから」 「無理に思い出す必要はない」 氷河が、低く、そう呟く。 それは多分、氷河の思い遣りで、そして、僕を甘やかす言葉。 でも、僕は聖闘士だし、闘うことが義務で、それこそが生きている証のようなものだし。 ──その時には、僕は、単純にそう思った。 早く元気になって、星矢たちの許に戻らなくては──戻れるようにならなくては。 氷河を、病人の看護から解放してやらなければ、と。 |