「ああ……!」

胸に触れられたくらいのことで喘ぐ男子がいるなどということを、氷河はそれまで考えたこともなかった。
が、瞬は、そう・・だった。
氷河に触れられるたび、どこに触れられても、瞬は、その部分に熱を持ち、身をよじり、悶え、そして、そうすることで、氷河に欲情を強いてきた。

もともと憎からず思っていた相手。
決して手の届かない高嶺の花と思い、だからこそ他の男に渡すことが我慢ならず、守り続けてきた相手──なのである。
氷河は、瞬の微かな喘ぎ声ひとつで、すぐにオスになった。

瞬には、教えることなど何もなかった。
瞬は、氷河をしなやかに受け止めてみせたし、それどころか、そうしろと命じたわけでもないのに歓喜の声をさえ洩らしてみせた。
未知の行為への恐怖心はあったのかもしれないが、それも隠し通した。
というより、瞬の身体の震えは、氷河の愛撫ですぐに消えてしまった。

「ああ……ん……」
氷河の下で瞬が洩らす声には、最初からつやがあった。


最初の夜は──その身体を組み敷いた時には、日はまだ天にあったが──、氷河は随分乱暴に瞬を犯した。
泣き声は必死に噛み殺しているようだったが、瞬の頬に残る涙のあとは隠しようもない。

一度その交わりの快美を知ってしまうと、氷河の方で抑えがきかなくなった。
愛しい愛しいと思い、可憐で清潔な花と信じていた瞬が、氷河の下で喘ぎ、乱れ、精を洩らし、氷河に貫かれることに歓喜してみせるのである。
氷河は、とても冷静ではいられなかった。
そして、瞬の中に乱暴に押し入るだけの交接も続けることができなかった。


氷河との交わりに、瞬は最初から悦びを覚えていた。──氷河には、そう見えた。
それゆえに、愛しさが増し、だが、互いの身体が互いに馴染めば馴染むほど、これをやがては他の男に渡さなければならないのだという、やるせなさも増す。
すると、氷河の愛撫の手は乱暴になり、その乱暴な愛撫をすら喜んでみせる瞬の様子が、更に氷河の苛立ちを誘うのである。

昼夜を分かたず、瞬を抱き続ける日々の中で、氷河は時折瞬が哀れに思えてならなかった。

氷河は、瞬への愛しさが勝る時には、壊れ物を扱うように恭しく抱き、苛立ちが勝る時には、小さな虫を押し潰す時ほどの思いやりもなく、ただ荒々しく押し広げて、瞬を貫いた。
そのどちらの場合にも、瞬は同じように喘ぎ、泣き、その細い身体で必死に氷河を受け止める。

自分を組み敷いている相手の心がどうあろうとも──もしかしたら、その相手が誰でも──瞬の身体は区別をつけることなく、同じ反応を示す。
氷河は、その事実が哀れで、そして、恐ろしかった。






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