この船は、21世紀のジャマイカ沖にあるはずだった。
この船を出れば、自分たちは──自分たちだけは──元の世界、元の生活に戻ることができる。そして、自分たちは、彼等の遭難に何の責任も負っていない。
ここで自分たちが安全な場所に逃げ込んだとしても、誰も自分たちを責めることはしないだろう。

瞬も、それはわかっていた。
わかっていたのだが。


「ジムは海賊になりたかったわけじゃないんでしょう? 夢はないの? 何か望むことはある?」
「みんなと島に戻りたい。母ちゃんに会いたい……」
「──そうだよね」
望んで海賊になったわけではない少年の、ささやかすぎるほどにささやかな望みが、瞬に決意を促した。

彼等の帰るべき場所はそこなのだ。
瞬と氷河に、瞬と氷河の帰るべき場所があるように、彼等には彼等のそれがある。






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