少しずつ島に近付いていく船の上で、船長が見守っていた磁石が狂い始めたのは、それから30分後のことだった。

「シュンの言った通りだ! あの時と同じだ!」
船長の大声を聞いた海賊たちが顔をあげた先に、白い高層ビルも神のいかずちのような閃白光もないポート・ロイヤルの町が出現する。

「俺たちの島だ!」
見慣れた風景を目の当たりにした海賊たちは、顔を喜色でいっぱいにして歓声をあげた。

「帆を張って、そのまま全速力で西へ!」
「おうっ!」
見慣れた島影に触れて、出来損ないの海賊たちは元気を取り戻したらしい。
彼等は瞬の指示に従って、それぞれの持ち場できびきびと動き出した。

彼等が自分たちの仕事に取り掛かる様を確認してから、瞬が氷河の名を鋭く呼ぶ。
「氷河!」
「SFにはSF技だな」
言うなり、氷河は、彼のSF技を炸裂させた。
氷河は、地震と同時に発生し、海賊の故郷の島と船に向かってくる津波を、瞬時に凍らせてみせた。

海賊たちが、一瞬作業の手を止めて、船の脇に巨大な壁のようにそそり立つ氷の波を見上げる。彼等はその時、おそらく、紅海を二つに割るモーゼの奇跡を見たユダヤの民の気分だったに違いない。
氷の壁を横に見ながら、カリブ海特有の貿易風を帆いっぱいに受けた船は、瞬の指示通り西へ、文字通り海面を滑るように走り出していた。
もう、止めようとしても船は止まらないだろう。

だが、氷河と瞬は彼等と一緒に行くわけにはいかなかった。

(この海が、どうか、僕たちの帰るべき場所に続いていますように)
氷河が凍らせた津波を乗り越えた新しい巨大な水の塊りが、ポート・ロイヤルのある入り江に向かおうとしていた。

「瞬!」
氷河が瞬の手を掴む。
そして、氷河と瞬はそのまま海に飛び込んだ。

荒れ狂う青い海が、自分たちを17世紀に運ぶのか、21世紀に運ぶのか、それは氷河と瞬にもわからなかった。
あるいは二人の行き着く先は死者の国なのかもしれなかったが、それでも。

氷河と瞬の帰るべき場所は、気の好い海賊たちとは別の世界にあったから。
二人は、そこを目指した。






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