「ったく、心配かけるんじゃねーよ!」

氷河と瞬が気付いたのは、あの船の急ごしらえの簡易寝台の5倍は軟らかいベッドの上だった。
病院ではなく、ホテルの一室。
目を開けた瞬たちを嬉しそうに怒鳴りつけてきたのは、彼等の仲間の一人であるところの天馬座の聖闘士だった。

「予約した客が来ないって、ホテルから沙織さんとこに連絡があってさ。本場のブルマンも飲みたかったから、紫龍と俺も来ちまった」
氷河と瞬が放棄したモーターボートが発見された浜の近くで、二人を見付けたのも星矢だったらしい。
瞬と氷河は、土地の警察がそれまで幾度も捜索した浜に、固く手を繋いで打ち上げられていたということだった。

「1週間近くも二人で姿をくらますとは、いったいどこでナニをしていたんだ」
わざと勘繰るような声音を作って、星矢の隣りに立っていた紫龍が尋ねてくる。
あれは夢の中の出来事だったのではないかという思いを完全に否定できず、瞬はベッドに横になったまま、心許なく首をかしげた。

「海賊ごっこ……かな」
「海賊ごっこ〜? なんだ、俺は、てっきり二人きりでどっかにシケこんでるんだと期待してたのに」
つまらなそうにぼやく星矢に、瞬は今度ははっきりした口調で答えた。
「それは、今夜するの」

「へ?」
「ほう?」
素頓狂な声をあげた星矢と紫龍以上に、瞬の隣りのベッドで上体を起こしかけていた氷河が驚いた顔になる。

その場で、最初に笑顔になったのは、だが氷河ではなく星矢だった。
「へー、なんかいいじゃん。常夏の島に来て、瞬も少しは開放的になったんだ? んじゃあさ、今夜は俺がホテルの窓辺で目いっぱいギターをむせび泣かせて、ムードを盛り上げてやるよ!」

「それは遠慮する」
仲間の親切を、氷河は即座に、にべもなく、拒絶した。
彼としては当然のことだったろう。
肝心の時に腰が砕けていては、話にならない。






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