「俺、はんたーい! 瞬が俺たちのこと忘れるなんて、そんなの、俺は絶対やだからな!」
言葉を失った紫龍の代わりに、氷河の考えに異議を唱えたのは星矢だった。
星矢の反駁が、だが、すぐに氷河の怒声に遮られる。
「だが、そうすれば、瞬は泣かずに済むようになるんだ!」

怒声といっても、それは、さほど大きな声ではなかったのだが──むしろ、低く押し殺した声だったのだが──実際に重みを感じるほどの氷河の威圧感に、星矢は息を飲んだ。
慌てて態勢を立て直し、再度氷河に異論をぶつけようとした星矢に、しかし氷河は口を挟む隙を与えない。

「俺がそうすると決めた」
氷河はきっぱりと、反論は受け付けないという態度で断言した。
しかし、星矢にはそれは、氷河の独断独善としか思えなかったのである。
「瞬はおまえのもんかよ!」
「そうだ! 文句があるか!」

初めて氷河が──苛立ったように──明確な怒鳴り声をあげる。
即座にそう言い切ってしまえるほどに親しんだ相手を手放そうとする氷河の気持ちが、星矢にはわからなかった。

「でも、瞬がこれまでのことを全部忘れちまったら、瞬はおまえの瞬じゃなくなるじゃないか」
氷河はそれには何も答えなかった。






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