「元気か」 瞬は、氷河の声を聞くのは、これが初めてだった。 どう見ても外国人そのものの姿をした人間の口から、どう聞いても日本人のものとしか思えないイントネーションの日本語が発せられることに、瞬は、親しみよりも違和感を覚えたのである。 「はい。あの時にはお世話になりました」 当然、他人行儀になる。 相手が“知らない人”だということもあったが、それよりも、瞬は氷河の青い目が恐かったのである。 それは氷のように感情がなく、孤独をしか知らない人間のそれのように虚無に満ちていた──瞬の目にはそう映った。 氷河の瞳から逃げるように、瞬は彼の上から視線を逸らした。 その先には、運動場のコンクリートの打ち放しになった一画で、星の子学園の蔵書──ほとんどが児童書である──の虫干し作業に勤しんでいる美穂たちの姿があった。 幼い頃の思い出のある本が多いのか、本のページを繰るたびに、美穂は古い絵本に懐かしそうな目を向けている。 あるいは、絵梨衣と幼い頃の思い出を語り合っているようだった。 瞬がここに来て1週間になる。 事故に合い入院する前もずっと、自分はここで暮らしていたのだと、瞬は皆に聞かされていた。 しかし、瞬は、この施設にある何を見ても──本を見ても机を見ても、自分の部屋の壁や家具を見ても一向に、それらのものに懐かしさを感じることができずにいた。 |