──そこで終わっていたなら、氷河と瞬のそれは、恋し合う者同士の感動的かつ美しい再会の場面だったろう。
しかし、そこで終わらないのが氷河である。
瞬は、氷河の手が二人の間で何やらごそごそと奇妙な動きを始めたことに気付いて、ぎょっとした。

「氷河……! 氷河はもう1週間もろくに食事をとってないって、星矢が言ってたよ!」
「ん? ああ、それくらいになるかもしれないな。なんだ、星矢の奴、いちいちチェックを入れてたのか。ご苦労なことだな」
瞬が言いたいのは、そういうことではなかった。

「さっきまで死んだみたいにしてたのに……!」
「もう生き返った」
いくら聖闘士でも、こんなことがあっていいのだろうか──と、戸惑う瞬ので、氷河はさっさと事を進めていく。
生き返った男はどうしようもなく元気で、その元気なところに瞬の手を導くと、
「おまえのせいでもうこんななんだ。いいだろう?」
呆れるほど恥知らずなセリフを、瞬に言ってのけた。

こうなってしまった氷河に逆らうことは無駄だという事実を、瞬は、わざわざ過去の記憶を掘り起こさなくても──嫌になるほど知っていた。
「もう……信じられない、氷河ってば……あんっ」
瞬の非難の言葉を封じるために、氷河は瞬の唇ではない場所への攻略を開始した。
氷河の手で、瞬の非難は難なく遮られる。

今の氷河に常識的行動を求めるのは無駄だと悟った瞬は、結局彼への抵抗を諦めて、身体から力を抜いた。
観念した瞬の様子を見た氷河が、嬉しそうに瞬の身体を押し開く。──瞬が、夢の中で幾度もそうされたように。
そうしてから瞬の上に覆いかぶさってきた氷河に逆らうように──既に抵抗の意思はないのだが──瞬は上半身をのけぞらせた。

「でも、これだけは──今度こんな勝手なことしたら、僕は絶対に……ああっ!」
おいた・・・をした子供は、叱られないために必死である。
身体の中に氷河を感じた途端に、瞬自身も氷河を責めることを忘れてしまった。


夢の中での抱擁とは、痛みも歓喜の大きさも桁違いである。
ほとんど一ヶ月振りの生身の氷河は、これまでずっと夢の世界を漂い続けていた瞬には、あまりにも強烈に過ぎた。
結局瞬は声を忍ばせることさえ忘れて、氷河が動くたびに彼の下で、悲鳴にも似た嗚咽を洩らし続けることになってしまったのである。






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