氷河と瞬の間に何かが起きたと知って、星矢はわくわくしていた。 それでなくても のどかな季節に、あまりにも平穏な日が続き、彼は退屈を極めていたのである。 言動に表さないだけで、それは彼の長髪の仲間も同様だった。 「瞬! 先週から氷河と険悪みたいだけど、何があったんだ? 氷河の奴、何かしたのか?」 “単刀直入”は、聖闘士星矢の熱血主人公である星矢の特権にして専売特許である。 熱血主人公にだけ許されたその権利を、星矢は遠慮なく行使した。 「べ……別に」 「別にってことはないだろ。さあ言え、白状しろ。氷河がおまえに不埒な真似をしたっていうんなら、俺が殴ってやっから!」 刺激を求めて食い下がる熱血主人公に、瞬が太刀打ちできるわけがなかった。 あるいは、瞬自身が本当は、自分の胸の内にわだかまっているものを吐き出してしまいたいと思っていたのかもしれない。 それでも一応渋る素振りを見せてから、瞬は小さく くぐもった声で、氷河がしでかした“不埒”の内容を星矢に打ち明けたのである。 「氷河、寝言で僕にひどいこと言ったんだ」 「寝言…… !? 」 「うん。先週 氷河がラウンジで昼寝してた時、僕、眠ってる氷河に、『僕のこと好き?』って訊いてみたんだ。氷河は好きだって答えてくれて、だから僕、どんなふうに好きなのかも訊いてみた。そしたら、氷河が――」 「氷河が?」 「ぼ……僕を裸にして、あちこち触って、色んな方法で色んなことをしたい、みたいなことを言ったんだ……」 「へっ」 瞬はもちろん、なるべく婉曲的かつソフトな言葉を選択し、極力刺激的でない言い回しに変換して、氷河の発言(?)を星矢に伝えたのである。 実際には氷河は、『どんなふうに好き?』と尋ねた瞬に対して、 「すっ裸にひんむいて、身体中舐めまわして、泣いて逃げようとするおまえを無理矢理引き戻して脚を開かせたら、俺のをぶっ込んで、おまえの喘ぐ顔をじっくり鑑賞しながら、たっぷり楽しませてもらって、ついでに何度か俺にイかせられて観念したおまえに俺の××を×××させて、その上で××××××××(後略)」 ――と、とても寝言とは思えない長文を一気にまくしたててくれたのだ。 瞬の告白を聞いた星矢は、まず 一瞬呆けることをした。 彼は、氷河と瞬の険悪の原因が そんなものだとは思ってもいなかったのである。 たかが寝言――まともな意識や判断力のない状態の人間が口にした たわ言――に、その時限りならともかく、1週間以上の長きに渡って本気で腹を立て続けるような人間がこの世に存在しようとは――否、瞬がそういう 大人気なくも執念深い人間だったとは。 瞬の意外な面を見せられて、星矢はしばし言葉を失ってしまったのだった。 瞬は瞬で、星矢はあくまでも氷河の破廉恥な発言の内容――自分の人間性ではなく――に絶句したのだと思ったらしく、怒りと羞恥のために頬を真っ赤に染めて、慌しく星矢たちの前から逃げ出してしまったのだった。 |