「寝言?」
「ああ。おまえ、かなり下品――というか、赤裸々というか、相当 露骨な言葉で卑猥なことを言ったらしいぞ。瞬はやわらかく言い直してたけど」
「おまえのことだ。『すっ裸にひんむいて、身体中舐めまわして、泣いて逃げようとするおまえを無理矢理引き戻して脚を開かせたら、俺のをぶっ込んで、おまえの喘ぐ顔をじっくり鑑賞しながら、たっぷり楽しませてもらって、ついでに何度か俺にイかせられて観念したおまえに俺の××を×××させて、その上で××××××××(後略)』とか言ったんだろう」

「…………」
紫龍が持ち出してきた とんでもない例文に、氷河は目を剥いた。
どうすればそんな下品な文章を考えつくのかと、氷河は、紫龍の文才に本気で呆れかえってしまったのである。
だが氷河は、仲間の文才に のんきに呆れている場合ではなかったのだ。
ないことに、すぐ気付いた――気付かされた。
「要するに、おまえは、おまえがいつも考えてることを、美化せずに直截的かつ具体的な言葉で瞬に言いたい放題してしまったわけだ」
という紫龍の言葉によって。

「それは……まずい」
紫龍の言う通りだとすると、彼が口にした例文などは まだまだ可愛い方である。
初めて深刻な面持ちになった氷河を、
「まずいだろ? すごーくマズイ!」
星矢が妙に楽しそうに煽ってくる。
所詮は他人事、星矢には危機感は全くない。
対照的に、氷河の顔面は蒼白になった。

「瞬……は」
「ラウンジで般若心経読んでた」
「あれはフランス高踏派の詩だ」
「似たようなもんじゃん」
今の氷河が知りたいことは、瞬がどこにいるかということであり、瞬が何をしているかということではなかった。
星矢と紫龍のくだらないやりとりに笑っている余裕もない。
氷河は押っ取り刀で瞬のいる場所に向かって駆け出した。

「さーて、どーなるのかなー」
星矢は極めて無責任に――無責任どころか わくわくしながら、その後ろ姿を見送ったのである。






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