城戸邸の2階にある氷河の部屋のベランダからは、張り詰めたように冷えた秋の夜気の向こうで瞬の星座を形作る星たちが白い光を放っている様が見えていた。 それらの星たちが厳しいほどに美しければ美しいだけ、地上世界の雑多なことが空しく感じられる。 秋の夜長を今夜もまた――へたをすると永遠に――切なく苦しく やり過ごすしかないのだと、氷河はほとんど諦め気分でいたのである。 そこに突然 瞬が現れて、『こんばんは』の挨拶もなしに、 「氷河。僕に、僕が氷河を好きでいるかどうかを訊いて」 と言ってきたのだから、氷河は驚かないわけにはいかなかった。 長い間をおいてから、瞬の要求の意図は理解できないまま、氷河は瞬に求められた通りの言葉を口にした。 瞬がいると、冷たいばかりに感じられていた星の光も温かく感じられると、そんなことを思いながら。 「おまえは俺が好きか」 「うん」 極めて端的な答えを氷河に与えた後、瞬は無言になった。 星だけが、ちらちらと雪のように小さな笑い声を秋の夜空に響かせている。 自分が次に言うべきセリフが何なのかぐらいは、氷河にもわかった。 震える声で、自分に割り当てられたセリフを言う。 「ど……どういうふうに、その、俺を――」 「氷河が無神経で大馬鹿で大間抜けで阿呆で鈍感な三枚目の変態でも嫌いになれないくらい好きだよ」 「へ……変態でもか。そ、それは重症だな。ははははは」 それまで笑いさざめいていた星たちですらも笑うのをやめたというのに、そう応じてしまうところが氷河の不幸な性である。 が、瞬は彼に付き合って笑うようなことはせず、あくまで真顔を保ち続けていた。 そして、何かを訴えるような色の瞳で、氷河を見上げる。 「うん。重症なんだ」 「瞬……」 星たちの笑い声の代わりに、今は氷河の心臓が、世界中に響き渡りそうなほど大きな音を立てていた。 瞬のいない世界は想像できない。 だが、瞬のいる世界でも、この事態は彼の想像の限界を超えていたのだ。 「氷河、僕……」 紛う方なき現実世界で、瞬が氷河の胸にその身を投げかけてくる。 現実が 驚異の世界となった瞬間、氷河の想像力はその限界を超え、すべての力を失った。 そうなった時、氷河の現実世界に存在するのは、温かい体温と肉と心とを持った瞬ひとりきりだった。 氷河の目にはもう、星すらも映らなかった。 |