翌日はもちろん秋晴れだった。 おそらく、この秋いちばんの爽やかな晴天。 乾いた空気の中で舞い散る赤や黄の葉を、庭に面したテラスに置かれた椅子に腰掛けた瞬が、人待ち顔で眺めている。 氷河と瞬は今朝、朝食の時刻になってもダイニングルームにおりてこなかった。 おそらく氷河はついに本懐を遂げたのだろうと、星矢たちは察していた。 「瞬ー。氷河と仲直りできたのかー」 「あ、星矢、紫龍。うん。色々ありがとう」 どうやら瞬の待ち人は、星矢でも紫龍でもなかったらしい。 それでも瞬は、今日の空のような明るい笑顔を作って、二人に礼を言ってきた。 「そりゃ、よかった。まあ、なんつーか、おまえの前に出ると途端にお笑い男になりさがっちまう氷河が哀れというか、情けないというか、カッコ悪いというか、見てられなくてな」 「奴は、これまでも、いい雰囲気になるとすぐに笑えないギャグを言ったり、突然踊り出したりして失敗を重ねていたからな。同じアテナの聖闘士として、あの無様さは情けないばかりだった」 氷河のかつての醜態の数々を思い出しながら、星矢と紫龍は、あのお笑い男に賢明な二人の仲間がいなかったら、この大団円はなかったに違いないと確信し、悦に入っていた。 そこに、数枚の枯葉と共に、思いがけない瞬の言葉が降ってくる。 「え? うん、そうだね。でも、氷河、ベッドではすごくカッコいいの」 そう言ってから、瞬はぽっと頬を上気させた。 「……へ?」 「なに……?」 思ってもいなかった瞬の返答に驚いた星矢と紫龍は、ほとんど無意識のうちに珍妙な声をあげ、それから ゆっくりと顔を見合わせた。 そんな二人を華麗に無視した瞬が、完全に夢見心地状態でうっとりした視線を再び宙に向ける。 その時、瞬の視界に彼の待ち人の姿が入ってきた――らしい。 瞬は掛けていた椅子から弾かれるように飛びあがると、玄関ホールの脇に現れた氷河に向かって一直線に駆け出した。 どう考えても、今の瞬の意識の中から、彼の二人の仲間の存在は綺麗さっぱり消え去っている。 「氷河、どっか行くの。僕も連れてって!」 氷河に対する瞬の態度は、昨日までのそれと、180度どころか540度違っていた。 星矢と紫龍は、尻尾を振って飼い主にまとわりついていく仔犬のような瞬の後ろ姿に、ひたすら唖然とすることになってしまったのである。 |