「この男が側にいさえすれば、おまえは冥王を招かずにいられるのか」 八寒地獄から解放された伊賀の者たちは、すぐさま火事の消化作業にとりかかった。 五体に支障は残っていないらしい。 徐々に収まっていく炎を背にして、瞬の兄は彼の弟に尋ねたのである。 瞬が、瞼を伏せ、項垂れるように俯く。 「……自分でもどうしようもなかったの。氷河がいないって聞かされて、悲しくて、何も考えられなくなって――ううん、考えると苦しいから何も考えまいとした。そうしたら、あれが僕の中に入り込んできて――」 「申し訳ありません。私が深く考えもせずに虚言を吐いたばかりに――」 瞬の前に膝をつこうとした由比の手を取り、瞬が言う。 「そのおかげで、僕、大切な人を失った由比の気持ちがわかった」 「瞬様……」 「でも……でも、由比にも二度とあんなものを呼んじゃいけないことはわかるでしょう? 駄目……駄目なんだ。悲しみに我を忘れたら、それは破滅を望む力をしか呼ばない……」 「――はい」 今では、弟を失った不幸な忍びにも、それはわかりすぎるほどにわかっていた。 ――そもそも、忍びの根本は『正心』である。 その心を正しく治めない時、忍びの術は盗賊の術に成り果てる―― しかし、これは、盗賊どころではない、破壊神の仕業である。 甲賀の忍びたちは、その力の強大さに圧倒されることしかできずにいた。 つい先ほどまで魔神だったものが、そんな彼等に向き直って深々と腰を折る。 「お手数かけて、ごめんなさい。こんなことはもう二度としないので、どうぞ僕たちと仲良くしてください」 ここで瞬に『断る』と言える剛の者は、その場に一人もいなかった。 |