「俺は――俺は、今は永遠だと思っているものが、いつか消えてしまうのが嫌なんだ。それなら最初から永遠だなんて思わない方がいい」
すべてを知っている瞬の前で意地を張り通すことは無駄であり、滑稽でもある。
氷河は自分が愚かな道化にならないために、正直になるしかなかった。

「だから一夜の夢で済まそうっていうの」
氷河の胸に頬を押し当てたまま、瞬が少し切なげに尋ねてくる。
「……そうだ」
その方が気が楽ではないか――。

だが、そう思うことは、つまり、逆説的に、氷河が完全な永遠を求めすぎているからに他ならなかった。
そして、何をどう言っても――言葉を重ねれば重ねるだけ――自分は瞬に、どれほど自分が“恋人”を慕い求めているのかを訴えることになる。
氷河は、自分が瞬が仕掛けた言葉の罠にかかってしまったことに気付きながら、その罠から逃れる術を見い出せずにいた。
瞬はもう嘘は聞きたくないらしく、氷河をその罠から解放しようともしない。

「氷河はそんなに永遠が欲しいの。永遠だっていう確証が欲しいの。永遠でなくちゃ価値はないと思ってるの。僕たちが今こうしていることも、その確証がなければ氷河には無意味なの」
「――こんなにおまえを好きだと思う気持ちがいつか消えるかもしれないと思うのが嫌なんだ」
「今 永遠だと思うのなら、それで十分じゃない。少なくとも僕はそれだけで……永遠に氷河を抱きしめていたいと思う」
「永遠という言葉を簡単に口にするな! おまえもいつかは死ぬ……!」

瞬の仕掛けた甘い罠から逃れようとして もがき、氷河はつい声を荒げてしまっていた。
『しまった』と氷河が臍を噛んだ瞬間に、氷河の胸から瞬の髪の感触が消える。
瞬は、その白い胸を枕元の灯かりにさらして、ベッドの上に上体を起こし、氷河の青い瞳を無言で見下ろしていた。






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