「ああ……!」
二人が身体を重ねた部屋とベッドは いつものそれと違っていたが、違う場所で、瞬の反応は昨日までのそれと全く変わらなかった。
しなやかに細い四肢を伸びやかに伸ばし、氷河の愛撫を受けとめ、その愛撫がもたらす感覚に進んで酔い、うっとりしたような溜め息を洩らす。
身体を開くことにも躊躇は見せず、その瞬間には僅かに身体を強張らせるが、一度受け入れてしまいさえすれば、その類まれな才能で、瞬は鮮やかに痛覚を快楽に変換してのけた。

自身が快楽に浸るだけでなく、あるいは そうすることによって、瞬は氷河を悦ばせるために、その身体をも変化させる。
瞬の身体の内は熱くたぎっており、氷河が自ら刺激を生もうとしなくても 容易に絶頂に至ることができるほど なまめかしく、氷河に絡みついてくるのだ。
氷河はむしろ、瞬だけの力で脱自の状態に導かれてしまうことを避けるために、その時を先延ばしするために、自らの動きを始めるのが常だった。

その行為に及んでいる時の瞬は、海に住む人魚が地球の重力から解放され、水の浮力と戯れながら、青く透き通った水の中を泳いでいるように見えた。
身体を反らし、時に のたうち、瞬はこの行為にいったい何を感じているのかと、彼を抱いている男が不思議に思うほど、自由で心地良さそうに見える。
快楽の度合いが大きくなり、陸に引き上げられた人魚が呼吸することに苦しんでいるのではないかと思えるほど激しく喘いでいる時にも、瞬は、その苦しさにさえ酔い楽しんでいるように見えるのだ。

すべてがいつも通りだった。
氷河が終わってしまっても、瞬はその腕を氷河の背に絡めたまま、もはや用済みの男を放そうともしない。
目を固く閉じて、瞬は、交わっていたことと触れ合っていたことの余韻を いつまでも我が身の内と外に引きとめておこうとする。

だから氷河はうぬぼれていられたのだ。
この瞬が、自分なしに生きていられるはずがない――と。

しかし、星矢が仲間に嘘を言うはずはない。
そんなことをしても、彼には何の得もない。
氷河は瞬に身体を重ねたままで――少し鼓動の速度が緩やかになってきた瞬の心臓を その胸で圧迫したままで、瞬に尋ねた。
「おまえ、俺とこうしているのが嫌か?」
「どうしてそんなこと訊くの。僕、何か変なことした?」
「……いや、何も」

うっとりと熱を帯びた目を薄く開いて、瞬は氷河に問い返してきた。
だが、瞬の瞼はすぐにまた閉じられる。
目を開けていることが苦しく思えるほど、ものを見るために力を使うことを苦痛に感じるほど、今の瞬は触覚とその余韻とに 全身を引きずられている。

今 自分が瞬から身体を離したら、瞬は自らの手足を引きちぎられるような痛みに悲鳴をあげるに違いない。
この瞬が、自らの半身を他人にくれてやることを考えることなどあるはずはないし、そんなことは不可能だ。
そう、氷河は思った。






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