「氷河、急ぎの用というのは何なの。あら、瞬も一緒?」
ラウンジのドアを開けて、その場に登場したのは、知恵と戦いの女神アテナこと城戸沙織だった。
その姿を視界に映した瞬が息を呑む。

瞬の前に現われた神は、瞬に理解できる言葉を話し、人間の心と命を愛し信じ守ろうとする女神だった。
その女神が、光の中で眩しいほどにまっすぐな瞳を、彼女の聖闘士たちに向けている。
瞬がその頬を蒼白にし、表情を強張らせていることに気付いて、彼女の眼差しは気遣わしげなものに変わった。
「瞬、どうしたの」

今の瞬には、そんな彼女は、氷河が言っていた通り、何よりも恐ろしい存在だった。
クトゥルフ神話の神々など、ものの数ではない。
人類を愛し信じ、彼女の聖闘士たちを慈しみ信じている神。
あまりの恐怖に、瞬は気が遠くなり、その場に崩れ落ちかけた。
その身体を、氷河が素早く抱きとめる。

大切そうに、慈しむように優しく抱きとめ、だが、あまり心配したふうもなく、氷河は、
「絶妙のタイミングで登場してくれたものだ。さすがはアテナ」
と、明るい声音で呟いた。






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