だが、その誤解は解けたのだ。 2人が感極まって、人目も気にせず いつまでも抱き合っているのも致し方ないことなのだろう。 氷河としては、早速彼が為すべき“苦労”の段取りを決めてしまいたいところだったのだが、氷河はこの場はいったん スサノオに譲ることにした。 「せいぜい旧交を温めてくれ。俺と瞬はしばらく その辺りを散策して、オロチ退治の対策を練ってくる」 氷河の、氷河にしては寛大な計らいがわかっているのかいないのか、そもそも氷河の言葉が聞こえているのかいないのか、彼等は氷河と瞬がその場を立ち去りかけるや、互いにもつれ合うようにして館の中に飛び込んでいった。 勝手にアレでもソレでもやっていろという気分で、氷河は恋人たちの館に背を向け、彼が最初にスサノオに会った川のほとりに瞬を連れていったのである。 ヤマタノオロチこと斐伊川の流れを眺めながら、氷河は、彼が彼なりに理解した現状とその打開策を瞬に説明した。 「この川の治水工事をしないと、みんなのところには戻れないの……」 瞬の声は、あまり明るいものではなかった。 それはそうだろう。 クレーン車やブルドーザーの代わりは聖闘士の力で代替できるかもしれない。 小宇宙を燃やすこともできない ごく普通の人間でありながら、ノミと槌だけでコツコツと岩を掘り続け、青の洞門を開通させた禅海和尚の例もあるのだ。 それは決して不可能なことではないだろう。 しかし、氷河と瞬には、禅海和尚のように30年という長い時間は与えられていないのである。 次に斐伊川を氾濫させれるほどの豪雨が降るまで――と、期限は決められている。 タイムリミットはおそらく、秋の台風シーズンに最初の大きな台風がやってくるまで。 夏の強い陽射しを受けて、今は容易に歩いて向こう岸に渡ることのできるほどの水量をたたえて輝いている斐伊川の流れを見詰め、瞬は不安そうに溜め息をついた。 そんな瞬の横顔を見て、氷河は胸を針で刺されるような痛みを覚えてしまったのである。 瞬にこんなふうな溜め息をつかせることになった そもそもの原因と責任は、極力態度に出さないようにと努めていたつもりではあったが、仲間たちの前で『やった やった』と浮かれてしまった男の上にある。 瞬の心を安んじさせるために、氷河は、 「多少の困難はあるかもしれないが、スサノオノミコトのオロチ退治は成功すると、神話が保証してくれている。大丈夫だ」 と、実際以上に自信に満ちた態度を示してみせないわけにはいかなかった。 それでもやはり不安そうに、瞬は微かに氷河に頷いた。 |