その楽しい行為は、非常に心地良くはあったが、確かに相当の体力を使う運動だった。
それは、さほどの休憩をおかずに100メートルダッシュを幾度も繰り返しているようなもので、冷静に考えればかなりの無理を身体に強いる、いってみれば苦しい行為でもあった。
それが、どうしようもなく快くて たまらない。
苦しいのに、繰り返さずにはいられない。
その不思議な感覚を思い出すだけで身体が疼き、それを抑えるのにまた体力と気力を使う。
氷河と離れてからも、瞬はずっと苦しいままだった。

人に倍する体力を持ち、不本意ながら苦痛にも慣れている聖闘士でさえ そうなのである。
普通の人間どころか、普通の人間以下の体力しかなさそうなクシナダ姫が、瞬は今更ながらに心配になってきてしまった。

昨日に引き続き、氷河とスサノオは斐伊川周辺の地図を眺めて、あれこれと相談を続けている。
そんな二人を無言で見詰めているクシナダ姫に、瞬は暫時ためらってから声をかけた。
「あの……大丈夫ですか」
色々な意味を込めて、瞬は彼女にそう尋ねたのである。
クシナダ姫は勘のいい女性らしく、瞬の質問の意図を正しく酌んでくれた。
「ええ。あなたこそ」
あでやかに微笑むクシナダ姫に反問されて、瞬は頬を染めることになった。

初めて間近かつ正面から見たクシナダ姫は、信じられないほど白くやわらかそうな餅肌の持ち主で、肉感的でもあり艶めいてもいた。
この世界が 性的に大らかであるというのは事実らしく、瞬の質問の意図を承知していながら、クシナダ姫は全く羞恥の色を覗かせない。

「スサノオの相手を務めるのは、川の氾濫を治めるより大変よ。彼はまるで尻尾が8本もあるように暴れん坊で」
「え? 尻尾?」
クシナダ姫の言う『尻尾』の意味が、瞬にはすぐにはわからなかったのである。
姫が何を指してそう言っているのかを理解してから、瞬は頬の朱の色を更に濃くした。
クシナダ姫がさらりと言葉を続ける。
「私が8本すべて倒してあげないと、あの人は眠れないと言うの」
「……」

だから、この一見しとやかで控えめな女性は、毎晩ハシタナイ声をあげることになるのだろうか。
だとしたら、もしかしたら、ヤマタノオロチとは、実はスサノオノミコト当人のことだったのではないのかと、瞬は思ったのである。
荒ぶる神は、今は氷河と難しい顔をして絵地図を睨んでいた。






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