翌日俺はまた昨日と同じ時刻にオーロラの下に向かった。――いや、ほんとは昨日よりちょっとだけ早く約束の場所に行った。 瞬はそこにいた。瞬も昨日より早く来てくれてたんだ。 瞬がいるのに気付いた俺は嬉しくて、猛禽類に狙われて雪の上を逃げ回ってる雪ウサギより速く 瞬の側に駆け寄った。 瞬は期待を裏切らない、と思った。 「氷河っ!」 瞬にも俺が見えたらしい。 瞬は俺に向かって大きく手を振って――側に行くと、すごく嬉しそうに笑っているのがわかった。 この時刻、この場所に来れば、本当はシベリアから遠く離れた場所にいる瞬に、俺は会うことができるらしい。 これがオーロラの魔法なら、オーロラが消えてしまうまでは、俺は瞬に会っていられる。 つまり、俺は冬の間は毎日でも瞬に会っていられるということだ――明日もあさっても瞬に会えるんだ。 それで何が変わるわけでもないのに――そのはずなのに、俺は瞬と一緒にいられることが嬉しかった。 瞬は確かに生きている。 でも、本当は俺とはずっと離れたところにいるから、触れ合うことはできない。 だから、瞬は いつ消えてしまっても不思議じゃない幻影のように現実感がない。 触れ合うことができないから かえって、瞬の笑顔が温かくて優しいことが、俺にはわかった。 現実感のない優しい空気を その身にまとった瞬。 だからなのかもしれない。 俺は、俺の脳裏に思い描いたマーマに対するように、瞬にいろんなことを話した。 俺がこのシベリアに来てから、そして、それ以前もずっと、自分の胸の中にしまいこんでいた迷いや虚しさや悩みや憤りを。 もちろん、瞬は俺と同じ子供だから、一瞬で迷いが消え悟りが開けるような助言を俺にくれるわけじゃない。 でも、瞬は、俺の話を何でも聞いてくれた。 俺がとりとめもなく話し続けることを、許して、受け入れて、時には俺を慰めてもくれる。 瞬は俺を否定しない。 俺は瞬を半分幻だと思っていたから、そんなふうに何でも打ち明けてしまえたんだと思う。 そして、そんなふうに何でも打ち明けていたら、長い人生を生きてきたわけでもない子供の中にあることなんて、数日間で語り尽くしてしまえるというもんだ。 俺が瞬と不思議な出会いをした数日後には、瞬は俺の考えてることを全部知ってしまっていたと思う。 |