とにかく、瞬の心配事が消え失せた その段になって、俺はやっと瞬に俺の気持ちを打ちあけることができた。
「生きて、おまえに触れられるようになるのが、俺の夢で希望だったんだ」
そう言って、俺は、けしからぬ抱き方で瞬を抱きしめた。

瞬は かなり驚いたようだったが、その驚愕が過ぎ去ると、その温かさの中に俺を招き入れてくれた。
瞬の中で俺は生き返り、春の中に同化する。
瞬は、俺に、希望だけじゃなく愛までくれる存在になった。

もっとも、一輝を心配する必要がなくなって、俺とそういう仲になると、瞬は少し本性を出してきたが。
さすがに聖闘士になるための修行に耐え抜いただけあって、瞬は子供の頃に比べると少々――いや、かなり――気が強くなっていたんだ。
「氷河は、僕一人のために お猿さんみたいに頑張って聖闘士になったって言うけど、もしかして あの変な踊りも僕のために覚えてきてくれたの? あれ、何て言うの? シベリア音頭?」
平気でそんなことを言って俺をからかうくらいに。

「そうだな」
そんなものの名なんて、俺も知らない。
どう答えても その答えが瞬の気に入るとは思えなかったから、俺は瞬のからかいを適当にやりすごした。
瞬が俺の愛想のない態度を見て、くすくすと忍び笑いを洩らす。
それから瞬は、その瞳に 春の陽光のような輝きをたたえて、俺を見詰めた。

「でも、氷河は、僕の希望の素だから、変な踊りを踊っても好き」
瞬は、どうすれば俺が生きたいと願うようになるのか、どうすれば俺を生かしておけるのかを熟知している。
以来、俺は 俺の希望の素に振り回されっぱなしだ。






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