氷河がそう決意した時。
「氷河ーっっ !! 」
空の上から、瞬の声がした。
砂漠の上に、グラード財団所有のジェットヘリの機体が浮かんでいる。
その場に立ち上がった氷河が、ヘリとヘリの開閉口から身を乗り出している瞬の姿とを見守っていると、目的のものを見付けたヘリは、氷河のセスナ機が転がっている場所から十数メートルほど離れたところで降下を始めた。

ヘリの着陸を待ちきれなかったのだろう。
ヘリはまだ空中に浮かんでいるというのに、瞬が10メートルはあろうかという高さから地上に飛び降りてくる。
砂の上に鮮やかな着地を決めると、そのままの体勢からダッシュして、数秒後には瞬の身体は氷河の腕の中に飛び込んできていた。
「氷河っ! 無事だったんだねっ!」

あまりに早い救助隊の到着を不審に思う余裕は、氷河にはなかった。
一時は、もう瞬の許へは戻らないという決意までしたというのに――だからこそ?――自らの腕の中に瞬がいることが嬉しくてならない。
自分がしがみついている男が きちガいだということも知らず、瞬はこの再会を心から喜んでくれている。
氷河は、瞬を抱きしめ返さずにはいられなかったのである。

「すまん。心配をかけた――のか」
「氷河が無事でいてさえくれれば、それでいいよ……」
瞳に にじんだ涙を風に散らしてしまおうとしたのか、瞬が、泣き笑いめいた表情を浮かべた顔を上向かせる。
それから瞬は、氷河の顔を見上げ、見詰め、嬉しそうな笑顔を作った。
どうやら瞬は、彼が捜し当てた男の気が狂っていることに気付かなかったらしい。
氷河は、だから、その事実を隠し通すことにした。

瞬に促されて氷河がヘリに乗り込もうとした時、ノシの王子様の姿はもう、その場から消えていた。
彼が彼の故郷の星ならぬ故郷のデパートに無事に帰ることができるのかどうか――は、ノシの王子様がどうやって この砂漠にやってきたのかすらもわからない氷河には知りようがない。
だが、おそらく彼は、ノシの誇りと その行動力にかけて、必ず彼がいるべき世界に帰り着くだろう。
氷河は、そう思うことにした。

飛び立ったヘリから地上を見おろすと、氷河が遭難していた場所は砂漠でも砂丘でもなく、京葉臨海地域でよく見掛ける ごく普通の埋め立て地だった。
近辺の海底を掘って運んできた砂で作られた、人工の砂浜である。
さほど広くもないし、水平線が見えることはあっても、地平線が見えるような場所ではない。
なぜそこを砂漠だと思うことができたのかは、氷河にもわからなかった。






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