氷河のあの瞳に見詰められた時、僕は、僕がそれまで氷河と友達でいられればいいと思っていたのはただの強がりで、ただの言い訳で、ただの臆病だったことに気付いた。
友達として側にいられればいいなんて、そんな考えは、ただの卑怯で、ただの臆病だ。
だって、僕は、友達じゃないものとして氷河が好きなんだから。

僕は、僕が 氷河の恋している人と氷河を争って、負けて、打ちのめされることを恐れていただけだった。
そんなことになって自分の心が傷付くことを恐れていた僕は、自分の心を守ろうとし、そのためだけに汲々として、氷河に自分の気持ちを伝えることもせずにいた。
彼に近付いて、自分が傷付くことを恐がっていた。

一緒にいられればそれでいい。
見ていられるだけでいい。
友達でいられるなら それで十分なんていう意気地のない慰めで、自分の心を抑え込もうとしていた。
でも、そんなの嘘だ。

心の底では、友達同士の間にある距離は遠すぎて寂しいから、もっと氷河に近付きたいと思っていた。
触れ合いたい、抱きしめ合いたい、僕が氷河に近付くことで僕の心が傷付くことがあっても、むしろそうなることで、氷河を好きな自分の気持ちが本当に存在することを、僕は確かめたかった。
そうすることで、自分が生きていることを実感したかった。
僕は、本当はそうなることを望んでいたんだ。

氷河はどうして、僕を好きだなんて、そんなことを言って、僕の本心に気付かせるの。
僕は氷河に抱きしめられたい。
僕は氷河を抱きしめたい。
疎まれ憎まれることを恐れずに、僕がどんなに氷河を好きでいるのかを、氷河に知らせたい。
氷河が欲しいと言って、氷河を困らせたい。

本当の僕は、とても我儘だ。
僕の心がそれで傷付くことがあったからって、それが何だろう。
僕が傷付くことも、そのせいで血を流すことも、泣くことも、僕は本当は平気だった。
叶うことなら、自分の心を氷河にぶつけたかった。
ただ、僕は、そんなことをして氷河に嫌われてしまったら、僕はもう氷河の友達でもいられなくなると思ったから、僕の心はそんなことには耐えられそうになかったから、僕は必死になって自分の心を抑えていたんだ。
なのに、氷河に好きだなんて言われてしまったら、僕は僕の心を抑える理由を失ってしまう。
そして、思い出してしまう。

十二宮で、我儘なほどに氷河の生を望み、氷河を生き返らせるために小宇宙を燃やした時の充実感――を。
あの時、僕は、本当に僕の命を生きて、そして死のうとしていた。
あの幸福感に勝る幸福感を、僕は知らない。

僕は自分の中の嘘と臆病に気付いていたから、あの時、嘘をつき続けることに耐えられなくなって、無理矢理氷河を僕の世界に連れ戻した。
氷河の意思を無視して、氷河を生かし続けようとした。
あの時の僕は、氷河の友達なんかじゃなくて、我儘な恋人だった。
本当はいつだって、今だって、僕は氷河の友達なんかでいたくはない。
見てるだけじゃ、僕は氷河に何もしてあげられない。

僕は、氷河に、何らかの力を及ぼしたいんだ。
氷河のために何かしてあげたい。
氷河が幸せになるために、僕の力が有効に作用したらいいと思う。
氷河の幸福の実現に、僕の力が必要なものであったらいいと思う。

僕は、氷河のためになら、どんなことだってするだろう。
氷河がそれを望んでさえくれたなら――。






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