「うん、シュンは真面目で頭の出来もいいんだ。俺の友だちだから運動神経も並み以上。あんな細い身体してても、すごく すばしこくて、何でも俺と互角にプレイできる。性格も、一般的に人に好かれる性格してると思う。ウィンチェスターでは1年2年と寮長だったらしいし、ほんとは面倒見がよくて優しくて明るい奴なんだ。俺、シュンもイートンに来るものだとばっかり思ってたから、シュンがウィンチェスター行くって知った時には駄々こねて、シュンをそんな遠くにやるなって、シュンの兄貴と大喧嘩したんだぜ。そんなとこ行ったって、ろくなことにならないって」 寮監室に戻ってきたセイヤが、悔しそうに言う。 もしその時、セイヤの駄々に折れていたら、シュンは不名誉極まりない不祥事に巻き込まれることもなかったのかもしれない。 あの厳格そうなシュンの兄がセイヤの不遜な態度を容認しているようだったのは、彼の中にそんな後悔があるせいなのかもしれなかった。 ムウから説明を受ける以前に、事情を知らされていたのだろう。 やっと遠くから戻ってきてくれた幼馴染みに元の明るい笑顔を取り戻させてやることが自分の務めなのだと言わんばかりに、セイヤは意気込んでいた。 「面体が良くて成績優秀。運動神経もセイヤ並みで、爵位があって金もある。出来すぎで嫌味だな。“陰気”以外の短所はないのか」 セイヤが幼い頃、シュンと共にどれほど楽しい幼年期を過ごしたのかは察して余りあったが、ヒョウガはシュンの幼馴染みではない。 傍迷惑で陰気な美少年への評価は、自然と辛辣なものになった。 セイヤが、しばし考え込むような素振りを見せる。 「んー……。しいて言うなら、極端な理想家の正論吐きで、世間知らずなとこかな。さっきシュンの兄貴に会ったろ。あの兄貴がシュンを溺愛してて、汚いものを見せず知らせずで育ててきたんだ。だから、ちょっと融通がきかないとこはあるかもな。でも、ほんとにいい奴だから、よろしく頼むよ」 セイヤに頭を下げられるなど、ヒョウガとシリュウには初めての経験で、二人はシュンへのセイヤの思い入れの強さに驚かされた。 とはいえ、セイヤが となれば、シュンは、本当にセイヤの言うように“いい奴”なのだろう。 大切な幼馴染みの変化に、セイヤ自身が驚愕し傷付いているのかもしれない。 セイヤのために――ヒョウガとシリュウは、セイヤの申し出を承知せざるを得なかったのである。 「ウチのガッコは、この二人が絶対権力を握ってるんだ。この二人に睨まれれば、誰も好き勝手なことはできないから」 シュンに与えられた部屋は、華美には走っていないが、生活するために必要なすべての家具付き、バスルーム付きの贅沢な部屋だった。 寮監室並みに、訪問者を受け入れられるソファやテーブルまで付いている。 その部屋にヒョウガとシリュウを案内したセイヤは、改めて二人を彼の幼馴染みに紹介した。 「ヒョウガは貧乏公爵家の息子で、品行方正じゃないし、マザコンの気もある危ない奴だけど、経済観念皆無の親父に代わって公爵家の再興を目論んでる。シリュウんちは準貴族で、財力はあるけど家格が今いちなんで、オックスフォード・外交官・大臣のルートを驀進して、家に箔をつけるつもりでいる野心家。将来を棒に振るようなことは絶対にしない奴等だから、安心してろ」 そう告げるセイヤは、ヒョウガとシリュウのまさに中間に位置する家の息子だった。 没落してはいないが特に躍進しているわけでもない子爵家の長男。 英国上流社会の縮図が、まさにそこに出現しているといってよかった。 その中で最も恵まれた家の子息であるシュンが、最も不幸な人間に見える この現実――。 「ご面倒をお掛けしてすみません。よろしくお願いします」 抑揚のない声でそう告げるシュンの覇気のなさが、ヒョウガの癇に障ったのである。 ヒョウガは、幸運な人間には幸福そうにしていてほしかった。 そうでなければ、いつか同じ高みに立ってやるという野心のモチベーションが保てない。 ヒョウガは、シュンの陰気でおどおどと卑屈な様子が 不愉快でならなかった。 |