夕食後、就寝までの時間を、ヒョウガたちはカレッジの談話室で過ごすことが多かった。 校内で特別に目立つ四人を、カレッジの優等生たちが遠巻きに眺めている。 「あの……時々 手の甲に鞭の跡がある生徒を見るんだけど、あれはどうしたの」 シュンがヒョウガたちにそんなことを訊いてきたのは、そろそろ秋も終わろうとしている11月半ばのことだった。 シリュウが妙に楽しそうに、シュンに問い返す。 「ウィンチェスターではなかったのか? 『就寝中は毛布から手を出していること』という規則は」 「就寝中に毛布から手を? そんな規則はなかったと思うけど……」 首をかしげて答えるシュンに、シリュウは薄い笑みを見せながら頷いた。 「ウチは特にその手のことに厳しいんだ。集団部屋には、夜間に一度寮監が見回りに入り、規則を守っていない生徒の手に鞭をくれることになっている」 「その手のこと――って?」 向学心に満ちた目をして反問するシュンを見るシリュウの瞳が、いよいよ楽しそうに輝きを増す。 不機嫌そうな顔をしているヒョウガをちらりと横目で見やってから、シリュウは咳払いをひとつして、改めてシュンの方に向き直った。 「その規則の意図がわからないか? おまえは、俺たちが毎日クリケットだのラグビーだのを義務として何時間もプレイさせられる訳を知っているか?」 「身体を鍛錬するためでしょう?」 教科書通りのシュンの返答に、シリュウが『不合格』のサインを送る。 初めてもらった不合格通知に、シュンは困惑したような顔になった。 「就学に不必要な欲望を消し去るためだ。スポーツ奨励は、生徒たちを運動によって疲れさせて、体力精力を奪うため。就寝時、毛布から手を出させるのは、生徒たちにオナンの罪を犯させないため。我が校の教師たちは、品行方正な英国紳士を育てるために、日夜心を砕いてくれているんだ」 「あの……え?」 授業についていけなかった経験のないシュンには、それは生まれて初めて味わう補習組生徒の気分だったかもしれない。 大袈裟な身振り付きのシリュウの言葉が皮肉か冗談らしいことは シュンにも察することはできたのだが、彼の発言の意図はシュンには全く理解できないものだった。 「シリュウ、余計なことを喋るな!」 シリュウの悪乗りが腹に据えかねたらしいヒョウガが、険しい声で学友を咎める。 「訊かれたことに答えただけなのに怒られてしまった」 シリュウは両の肩をすくめ、わざとらしい所作で、掛けていた椅子から立ち上がった。 ヒョウガの掛けている椅子の横に回り込み、その耳許に低い声で囁く。 「シュンは、本当に何も知らないぞ。我が国のすべての母親が理想とする清らかな天使様だ」 「……」 「性に関わることなど、口にするのも汚らわしい。性教育などもっての他――。シュンは性抑圧社会の犠牲者だな。あれでは、欲望に目を爛々と輝かせた男にレイプされかけても、シュンは自分が何をされようとしているのかわからないだろう」 ヒョウガの頬が青ざめ強張るのを確認すると、シリュウは笑いながら談話室を出ていった。 |