「すげー。氷河の奴、一人で三巨頭を倒したぞ。半分は助平心だとしても、愛の力って偉大だなー」
星矢と紫龍は、相変わらず氷河の戦い振りを傍で見ているだけだった。
「満身創痍だがな」
へたに手出しをしたら、氷河の拳は味方である天馬座の聖闘士と龍座の聖闘士にまで向けられかねない。
今の氷河の頭の中には『瞬』という究極の目的しか見えておらず、瞬でないものはすべてが彼の行く手を阻む障害物なのだ。
それがわかっているから、彼等にできることは『氷河の邪魔をしないこと』だけだったのである。

「世界一の美男の称号を手に入れてご満悦のハーデスはもう出てこないだろうし、あとは死と眠りの神様方だけか」
「へ……?」
紫龍の言葉に驚いた星矢が顔をあげると、そこには――地に倒れ伏した三巨頭の向こうには――金の髪と瞳、銀の髪と瞳をした二人の男の姿があった。
氷河はといえば、全身が心臓にでもなったかのように荒い息をして、その場に立っているのがやっと というありさまである。

氷河は、だが、死の神と眠りの神をも自分の手で倒すつもりでいるらしかった。
それが自分に与えられた至上義務であり、誰にも侵すことのできない権利でもあるというかのように、彼は星矢たちに助勢を求めようとしない。
片や無傷の、人ではなく神。
そして もう一方は その足で立っていることが奇跡としか思えないほどぼろぼろになった――人間。
その上、2対1。

その現実を正しく認識してはいるのだが、星矢には氷河が死と眠りの神たちに負けるとは思えなかったのである。
「氷河の奴、本当に一人で全部倒すかも……」
「瞬のためだ。倒すだろう」
愛の力は偉大なものである。
たとえ、その半分は助平心でできているにしても。






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