312000カウント記念小説


312000カウントをGETしてくださったのは、万朶の桜さん。


お題は、

トゥーランドット


「氷の国の王の心を溶かしてください」
とのことでした。
万朶の桜さん、前回に引き続き、リクエストどうもありがとうございます!

はい、そういうわけで『トゥーランドット』。
プッチーニ最後の(そして未完の)名作です。

んーと。
私は、「オペラやミュージカルは主に歌と演出(ミュージカルの場合は、+ダンス)を楽しむもので、ストーリーを楽しむものではない」という偏見を持っています(偏見……だと思います。おそらく)。

特に『トゥーランドット』は、多くの人の命を奪った残酷なサディスト姫と他人の心を慮ることのできない大馬鹿者の王子がハッピーエンドで幸せになり、人として善良でマトモな心を持ったリューやティムールは全く報われていない(他人が彼等を不幸と断じるのは傲慢なことかもしれませんが、第三者の目で見て、彼等は救いのないまま終わってしまう)。

『トゥーランドット』は、あらすじを追うことだけをしたら、大抵の人間が「見る価値なしの超駄作」と思ってしまう作品なのではないかと思います。
少なくとも、文章では絶対に感動も納得もできない話。
でも、歌や演出が、そんなストーリーを感動的で美しい物語にしてしまうんですから、音楽の持つ力たるや、すさまじいものがあります。

カラヤンが、
「音楽とは人間を豊かにするため、“失われたもの”を取り戻すために、人間が人間のために作ったものだ」
というようなことを言っていますが、「まさしく!」と思いますね。

ところで、私が最初にオペラならぬミュージカルというものに触れたのは、小学生の頃にテレビで放映していた『ハロー・ドーリー』を観た時だったと思います(もしかすると、それより先に『マイ・フェア・レディ』を観ていたかもしれません)。
普通の映画を観るつもりで観ていた私には、ドーリーとホレスおじさんがくっつくのが あまりに唐突すぎて、何が何だからわからなかった。
なにしろ、最初の30分くらいで、歌とダンスのシーンはストーリー進行に全く関係がないということに気付いた私は、歌が始まるとテレビ画面から目を逸らし、手元のマンガの方を読み進めていたのです。
あのストーリー展開が理解できるわけも納得できるわけもありません。

つまり、オペラやミュージカルから音楽を取り除いたら、それはタコの入っていないタコ焼きのようなもの。
そのオペラやミュージカルのネタを音楽抜きの物語として読んでいただこうと思ったら、作品の登場人物に、普通の人が理解共感できるだけの最低限の人間性を持たせるところから始めなければなりません(特に『トゥーランドット』の登場人物は)。

ところで、今回いただいたリクエストが「氷の国の王の心を溶かしてください」でしたので、私は最初、氷河をトゥーランドットの位置に置かなければならないと思ったのです。
実際始めのうちは、その線でプロットを作り始めたのですが、オペラ鑑賞者ではなく やおい書きとしての私の判断力(と好み)(とペンを持つ手)が、どうしても、
「残酷姫と大馬鹿王子のラブストーリーなんか書きたくないー!」
と叫ぶ。
私は優しい人間でも聡明な人間でもありませんが、やっぱり、トゥーランドットやカラフのように他人を思い遣ることのできないタイプの馬鹿は嫌いです。
そんな人間の愛なんて無価値、むしろ有害だとさえ思う。

カラフの父親ティムールは本当に哀れだと思うのですが、でも息子をああいうふうに育てたのは彼自身なわけですから、ある意味それは彼の自業自得。
『トゥーランドット』でいちばん哀れであり、そして、私にとって最も謎めいていて興味深い存在は、やっぱり リューですね。

リューは健気で好きです。
ですが、どうして彼女があんな馬鹿王子に惚れたのかがわからない。
恋は理屈でするものではないことはわかっていますが、「ただ一度自分に微笑みかけてくれたから」というだけのことで、あの馬鹿のために命を捨てる彼女の価値観が理解できない。
普通はさっさと愛想を尽かすでしょう。
カラフになんかさっさと愛想を尽かして、もっとマトモな、もっと優しい男性に恋して、幸せになってほしいと思うのに、リューはそうは動かない。
本当に理解が難しいキャラです、リュー。

とはいえ、サクリファイス(犠牲)で聖衣を手に入れた瞬ちゃんを重ねられるキャラは、トゥーランドットのメイン3人の中では やはり リューしかいないわけでありまして。
むしろ、リューは瞬ちゃんに非常に似たタイプ。
考えてみれば、瞬ちゃんが我が身を犠牲にしてでも守ろうとしている この地上に住む人間たちだって、もしかしなくてもカラフ並みの大馬鹿者で、瞬ちゃんの犠牲に値しないものなのかもしれない。
そんなふうに考えますと、「リュー=瞬ちゃん」は動かせないところ。
トゥーランドット(氷河)がカラフの馬鹿さ加減に呆れて、リュー(瞬)に目を向けるようになるストーリーさえ、私は考えました。
結局、この案も捨てましたけれど。


ここまで書いて、このページの内容を読み返し、私ってば言いたいことを言ってるなー と思ったり(今更;)。
『トゥーランドット』をお好きな方はどうぞお許しください。
配役に悩み抜いたわりに、結局いちばん ありきたりな配置になったかも。
でも、ありきたり=妥当ということでもありますからね。

トゥーランドットがカラフに出した3つの謎は、ほどよく聖闘士星矢二次創作にふさわしいものに変えています。

例によって寛大なお心をご用意の上、お読みいただけましたら幸いです。





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