「ど……どうして――いつから、わかってたの……?」
瞬王子は、声と唇を震わせて、氷河王子に尋ねました。
氷河王子は、そんなことを聞いてくる瞬王子を怪訝に思ったようでした。
「最初からわかっていたぞ。わからないはずがないだろう。髪が何色をしていようが、着ているものが男物だろうが女物だろうが、顔はそのままなんだから。おまえのその――綺麗な目を見ればわかる」

瞬王子にそう告げる氷河王子の瞳は、瞬王子の目に、とても綺麗なものとして映っていました。
瞬王子だって、そうだったのです。
時に皮肉げに、時に投げやりに、時に優しく、けれどいつもまっすぐに瞬王子を見詰めてくる氷河王子の綺麗な目に、瞬王子はいつも心を震わせていたのです。
その綺麗な目をした氷河王子は、亜麻色の髪の乙女が瞬王子だと知っていて、その上で“彼女”を好きだと言っている――言っていたのでしょうか。

「ぼ……僕、女の子の心を返しちゃったら、氷河を嫌いになっちゃうのかもしれない」
瞬王子の心臓は、信じられないほど速く強く、どきどき鼓動を打っています。
その“どきどき”は、ときめきと、そして不安でできているものでした。
氷河王子の綺麗な瞳が、そんな瞬王子の姿を映しています。

「……心が二つあるということが どういうことなのか、俺にはわからない。だが、神に与えられた命や心を育てるのは、それを受け取った人間だろう。おまえの心は、それが女のものであれ男のものであれ、おまえが育ててきたものだ。そして、俺は、おまえが育ててきた おまえの心を好きになった」
「氷河……」
「俺は、女の姿をしたおまえを好きになったわけじゃない。俺は、あの時、俺の母を庇ってくれたおまえを好きになった。好きになって、最初におまえを間近で見た時に、たまたまおまえが女の姿をしていただけだ。人間というものは、好きな相手でないと、その姿をちゃんと見ようとしないようにできているものらしい。あの時初めて、俺はおまえを本当に綺麗だと思った」

「だ……だって、氷河は、亜麻色の髪の女の子を好きになったって、僕に言ったよ! だから、僕は女の子になりたいって思ったのに……!」
そうです。
そうだったのです。
女の子の心をなくしてしまったら氷河王子を嫌いになるかもしれないなんて、そんな不安は嘘でした。
そんな不安を、瞬王子は最初から感じてなどいなかったのです。

瞬王子は、絶対に自分はそんなことにはならないと確信していました。
自分が氷河王子を嫌いになるなんてありえないことだと わかっていました。
瞬王子はただ、氷河王子に嫌われてしまいたくなかったのです。
氷河は亜麻色の髪の乙女・・を好きなのですから、女の子の部分がなくなってしまったら、自分は今以上に氷河王子に振り返ってもらえない存在になるのではないかと、瞬王子は、それが不安だったのです。
それが、瞬王子を捉えている本当の不安でした。

「おまえが俺をからかっているんだと思ったから、俺もからかっただけだ」
「からかっただけ――って……」
氷河王子の答えは、またしてもあっさり。
瞬王子は、あまりのことに、張り詰めていた気持ちが一度に緩んでしまったのです。
確かに、氷河王子なら、そんないたずら心を起こすこともあるかもしれません。
悪人をネズミ花火で追い払おうとした氷河王子なら。

「僕は、ずっと男の子として生きてきて、いつも男らしい王子様になりたいって思い続けてきたの」
「なら、そのままでいればいい。俺はそういうおまえを好きになったんだと思う」
瞬王子の胸をどきどきさせるようなことを、氷河王子が躊躇も迷いもなくあっさりと言い切ってしまうのは、それが彼にとってためらったり迷ったりする必要のないことだからなのでしょう。
彼はもうずっと以前から――二人が出会ったその日から、瞬王子を好きだと自覚し、好きでい続けてくれたのです。






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