黒衣の男の予見は現実のものになった。
聖域と冥界の戦い――聖戦――は、十二宮の戦いで命を落とした黄金聖闘士たちの聖域襲来によって始まり、ハーデス麾下の冥闘士たちが動き出すことで、その回避は不可能になった。
開戦後の紆余曲折はあったが、結局、アテナの聖闘士たちは冥界に向かうことになったのである。

その間、もちろん氷河は、瞬に冥界に向かうように働きかけることはしなかった。
死者の国から蘇ってきた黄金聖闘士たちの姿を見た時、あの黒衣の男が言っていた死者の復活は もしかしたら可能なことなのかもしれないと思いはしたのだが、それでも。

瞬が冥界に向かうことになったのは、アテナの聖闘士である瞬の宿命ともいうべきもので、氷河はそれを誘導することも阻止することもできなかった。
だが、氷河は、自分が母の復活のための誘惑に耐えきったとは言えない気持ちでいたのである。
アテナの聖闘士たちが冥界に向かうことになった時、氷河は『おまえは冥界に行くな』と瞬に言うことができなかったから。
言うべきだったのに、言えなかったから。






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