アテナの聖闘士を傷付けることができるのは、アテナの聖闘士と互角、あるいは それ以上の力を持つ者だけとは限らない。
そうではなかった。
命をかけた戦いを共に戦ってきた仲間であるところの星矢と紫龍に 立つ瀬を奪われた氷河に 更なる追い討ちをかけてくれたのは、聖闘士に匹敵する力どころか、庭のジャリ石の原子を砕く力も持たない、城戸邸のメイドたちだった。

その日 梅の枝選定のためにピンクのヘアクリップで髪を上げた瞬を見かけた城戸邸の若いメイドたちが色めきたち、
「可愛い〜い。まるで 女の子みたい〜!」
とか何とか言いながら、何かと理由をつけては 瞬の髪に触りたがりだしたのだ。
それも、翌日から毎日、毎朝。
人の親切を拒むことなど思いもよらない瞬には、彼女等の厚意を拒否することもできず、彼女等に為されるがまま。
ポンパドールや夜会巻き等の大胆すぎるアップやポニーテール等にされることは、はさすがに やわらかく遠慮していたが、ヘアゴムやヘアクリップ等、目立たないアクセサリーを用いて髪をまとめる程度のことは、瞬は死ぬ気で耐えているようだった。

「不思議だよなー。紫龍が髪を結んでも女には見えないのに、瞬が ちょっと髪をいじると、すっかり女の子に見える。髪なら紫龍の方があり余ってるのに、メイドたちも紫龍の髪はいじりたがらないし」
「あれはもう、瞬に課せられた宿命だな。瞬は 甘んじて耐えるしかないだろう」
命をかけた戦いを共に戦ってきた仲間であるところの星矢や紫龍が無責任にも そんな暴言を吐いていることも知らず、瞬は、
「髪を伸びるままに放っておいたのが、そんなにみっともなかったのかな」
と見当違いな反省をしていた。
そんな事態を、星矢や紫龍は苦笑いを浮かべて聞き流していればよかったのだが、氷河はそうはいかなかった。

とにかく、瞬の髪に触れることを、瞬は氷河にだけは許さないのだ。
氷河が幾度挑戦しても、結果は同じ。
星矢も紫龍も城戸邸のメイドたちも、瞬の髪に触れることができる。
そうしたいと望まれれば、沙織にも、瞬は その髪に触れることを許していただろう。
ただ、それは、氷河にだけは決して許されないのだった。






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