「我々は本当はハーデス様の復讐を企んで、ここにやってきたのです。ですが、我々を信じてくださる瞬様の優しさと清らかさが、我々の心を変えてしまいました。我々は、今度こそ、本心からあなたに従います。我々は、過去を忘れ、復讐の心を捨て、命に代えても あなたを守り、そうすることを我々が生きていく目的とすることにいたしました」 ラダマンティス、アイアコス、ミーノスが復讐の意思を捨て、今度こそ本当に心からの瞬への忠誠を誓ったのは、その翌日。 ハーデスの復讐を考えていたという彼等の告白に驚きはしたものの、すべてがふっ切れたように明るい三巨頭の瞳は、瞬を喜ばせ、その心を安んじさせた。 「なら、僕たちは、互いに互いを守る仲間同士になりましょう」 「それが瞬様のお望みなのでしたら」 「もちろん、それが僕の望みです。それから、あともう一つ。仲間同士なんだから、『瞬様』はやめて、これからは僕のこと、『瞬』と呼んでください」 「そのようなことは――」 「瞬」 堅苦しく融通の利かないミーノスに代わって、ラダマンティスが脇から瞬の名を呼び捨てで呼ぶ。 「はい」 呼ばれた瞬は、もちろん気を悪くした様子は見せず、むしろ満面の笑みで彼に答えたのである。 三人が、まだ瞬にまとわり続けるつもりでいるらしいことは気に入らなかったが、ともかく彼等は復讐の意思を捨てたと、底意の感じられない表情で宣言した。 その宣言は、今度は 氷河にも信じることのできるものだった。 昨日まで瞬への復讐心を抱いていた者たちが、その心を捨て、瞬を守ると言っているのだ。 彼等が邪魔者であることは、昨日と今日とで 何の変わりもなかったが、昨日より今日、瞬の身の安全が守られるようになったことは事実である。 ならば、当座のうちは それでよしとすべきだろう。 いずれ三巨頭は、瞬に命じさせて 聖域にでも修行に出してしまえばいい。 そう考えて、氷河は、三巨頭が もうしばらく瞬の側にいることを許すことにしたのだった。 氷河は、その時 まだ気付いていなかったのである。 三巨頭が 衷心から瞬の身を案じ、瞬の身を守るということの意味に。 いかなる企みもなく本心から瞬を守る決意を為した彼等は、たとえ瞬から『氷河が僕に近付くのを邪魔するようなことはしないでください』と命じられても、氷河を危険人物と見なし、その命令に従うことはないのだということに。 三巨頭は瞬の真の味方になった。 つまり、彼等は、氷河の真の敵になったのだった。 Fin.
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