憶えていることを すべて語り尽くそうとするかのように語り続けるカミュと、自分が知らずにいたことを すべて聞き尽くそうとするかのような瞬。
和やかに穏やかに過ぎていく時間が 実は恐ろしく緊張した時間だったことに 氷河が気付いたのは、時刻が深夜1時をまわり、さすがに今日はお開きにしようと話が決まって、皆が散会したあとのことだった。

「カミュ先生が氷河を とても愛していて、とても いい人だっていうことはわかったよ。自分だけの思い出にしておきたいことも いっぱいあったんでしょうに。……本当は最初から わかってたんだけどね。カミュ先生は、氷河を今の氷河にしてくれた人だもの。悪い人のはずがないんだ」
来客に気取られぬように瞬の部屋に忍び込むことまでしたというのに、なぜか事に及ぶ気になれず、瞬の肩を抱いて 目を閉じかけた時。
氷河の胸の中で、瞬が小さく そう呟いた時だった。

「僕、妬いてるのかな? 氷河、どう思う?」
「……妬いてくれるのなら嬉しいが、おまえが妬く必要はない。俺とおまえは これからずっと一緒で、俺は、カミュと過ごした時間より はるかに長い時間をお前と共に過ごすつもりだ」
「うん……。でも、それが とっても申し訳ないことのような気がするの。カミュ先生が育てた氷河なのに」
「それは どういう理屈だ。それで言ったら、俺も、一輝が手塩にかけて育てたおまえを 一輝から奪ったことになる」
「そんなこと……」

一度 言葉を途切らせた瞬は、それきり黙り込んでしまった。
額を氷河の肩に押し当て、そのまま目を閉じる。
一人の人間が 家族や肉親以外の誰かに恋をするというのは、そういうことなのだ。
考えようによっては、それは、ひどく切なく、ひどく悲しいことだった。






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