翌朝 起床が最も遅かったのは、氷河が知る限りで、常に定刻の起床を守り、最も規則正しい生活を送っている二人の聖闘士たちだった。
ぐっすり眠っている瞬を無理に起こすこともできず、先にダイニングルームに下りていった氷河は、そこで、カミュもまた瞬同様 目覚める気配がないことを、ミロとアイザックから知らされたのである。

「まあ、二人共 疲れているんだろう。昨夜のバトルの熾烈さは尋常ではなかったからな。黄金聖闘士の俺が手も足も口も出せなかった。俺はいったい何のためについてきたんだか、全くの役立たずだった」
「先生もすごかったが、アンドロメダも すごかったな。あの優しげな微笑を 1秒たりとも崩さなかった。あんなに可愛い顔をしてるのに、とんでもなく強靭な精神力だ」
二人に そそう言われて初めて、氷河は、昨夜の和やかな談笑が何だったのかを知ったのである。
そして、来日予定メンバーに入っていなかったミロが、この家庭訪問に(おそらくは無理を言って)ついてきた訳も。
ミロは、気まぐれで この家庭訪問に加わったわけではない。
彼は、アンドロメダ島を直接襲撃した自分が来日メンバーに加わることで、カミュに向けられるかもしれない瞬の悲憤をカミュの代わりに我が身に引き受けようとしていたのだ。

思えば、今 この城戸邸に集っている者たちは誰もが誰かに負い目を抱いている者たちばかりだった。
ミロは、アンドロメダ島を襲撃し瞬の師であるアルビオレの死に加担したことで、瞬に負い目がある。
カミュは、アテナを見誤りアテナを奉ずる氷河を一度は死に追いやったことで氷河に負い目がある。
アイザックは、師の教えに反し 海闘士として聖域に反旗を翻したことで、師と聖域に属する者たちに負い目がある。
そして、瞬は――瞬も――氷河を彼の“家族”から奪うことに負い目を感じているのかもしれなかった。
だが、彼等は皆 誰もが、どの時にも、大切な人のため、幸せになってほしい人のために、その時 自分にできる精一杯のことをしたのだ――。






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