氷河王子がエティオピアの都に帰ってきたのは、出発から1ヶ月後。
コルキスの不眠龍を倒し、ヘスペリデスの園の百頭龍を倒し、海の大迷惑カリュブデスやグライアイの魔女たちを成敗することには さほど長い時間はかからなかったのだが、そうして手にした山のような財宝を運ぶのに手間取って、帰還が予定より少々遅れたのである。
数々の宝石や黄金の武器鎧を山積みにした20台以上の荷車を馬に引かせて、氷河王子は怪物退治の旅から帰ってきた。
が、なにしろ氷河王子はエティオピア王宮には出入り禁止の身。
そんな大荷物を従えて、見張りの兵に気付かれずに瞬王子の許に凱旋報告に赴くことは困難――というより不可能。
エティオピア王宮の城門の前で どうしたものかと悩んでいた氷河王子に救いの手を差しのべてくれたのは、あろうことか氷河王子の天敵の侍従だった。

「氷河殿。すぐに玉座の間にお越しください。国王陛下がお待ちです」
「なに?」
息せききって氷河王子の許に駆け寄ってきた侍従に そう言われ、氷河王子は少なからず面食らってしまったのである。
あの頑固頑迷を絵に描いたような一輝国王が まさか宝の山に目がくらんで 弟の恋人に急に愛想を振りまく気になったのだとは考えにくい。
瞬王子の兄は、そんなに扱いやすい男ではないのだ。
氷河は、そう思っていた。
実際、一輝国王は山積みの宝に目がくらんだわけではないようだった。
城内から氷河王子を呼びにきた侍従は、いったい一輝国王の心境にどんな変化が起きたのかと目を しばたたかせている氷河王子に困ったような目を向けて、
「国王陛下は かんかんです」
と耳打ちしてきたから。






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