アヒルの氷河は、アヒルであるところの自分を 目一杯 楽しんでいるようだった。
なにしろ人間の姿をしていた時には 秘密の花園だった瞬の浴室の謎が ついに明らかになったのである。
湯船に入っている瞬の回りを すいすい泳ぎ、前からも後ろからも、右からも左からも、瞬の裸体を鑑賞し放題なのだ。
時には潜水して、瞬の身体を あちこち突つき、瞬をくすぐったがらせたりもしているらしい。
あげく、『今日、俺は 瞬の股下をくぐった!』などという たわけたことを、興奮気味に仲間たちに報告してくる始末。
氷河の前向きな姿勢(というより、挫けなさ)には、目を みはるものがあった。
日中は ほとんど瞬の肩の上に乗っていて、食事は 瞬の皿の食べ物を分けてもらい、これまた 超ご機嫌。
瞬は瞬で、安全で可愛いアヒルの氷河が かなり気に入ったらしく、二人は(一人と一羽は)へたをすると人間同士でいた時より、親密さを増していたかもしれなかった。

「瞬が小さくて無害な動物を可愛がるのは 何となく わかるような気もするけど、氷河が浮かれてるってのが、俺には よく わかんねーんだよな。人間だった時にはできたことが、いろいろとできなくなってるのにさ。それこそ、あんなこととか、そんなこととか」
星矢は、その点が不思議だったのだが、その謎は、
「不思議でも何でもないことだ。クチバシの黄色いヒヨコには、発情期がないんだ」
という紫龍の一言で、あっさり解明された。

そんなこんなで。
氷河が無害で小さなアヒルちゃんでいることは、瞬をハッピーにし、氷河をハッピーにし、星矢や紫龍までがハッピーでいるという、完全に幸福な世界を 城戸邸内に現出させることになったのである。
誰もが幸福だった。
ただ一人の男を除いて。






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