看護の日の怪我が完治しても、一輝は一向に城戸邸を出ていく気配を見せなかった。 瞬がそのことを非常に喜んでいるのは、星矢にも紫龍にもわかったが、氷河がその事態をどう思っているのかは彼等には測りかねた。 瞬が楽しそうにしている様を見る氷河の目は傍目には穏やかなものだったが、それが本心からのものなのか、瞬の手前、そう振舞っているだけなのかは、傍目には判断が難しかったのである。 瞬の心を弾ませているものが自分以外の誰かでも、瞬が笑っていてくれるのなら、それを是とするほどに氷河が広量な男か否か――もしかしたら、その答えを、氷河自身もわかっていなかったのかもしれない。 ただ、氷河が一輝の存在を煙たく思っているのは事実のようだったし、一輝もまた、当然のことながら氷河に良い感情を抱いているようには見えなかった。 彼等はただただ瞬のために、瞬を困らせることのないように、冷たい友好関係を保っている――というのが、実際のところだっただろう。 二人が顔を合わせると周囲の空気はぴんと張り詰め、星矢などはその緊張感に息苦しさを感じるほどだった。 ともあれ、そんな一触即発とでも言うような日々を過ごした後、やがて、城戸邸の聖闘士たちのもとには6月が訪れた。 梅雨に入るまでの束の間の夏。 草木はその緑の濃さを増し、木陰を恋しく思うほどに暑い日が続く。 一見平和な城戸邸に異変が起こったのは、そんなある日のことだった。 |