[二]






あまりに平穏に、何事もなく過ぎていく毎日に、そろそろ氷河は飽きかけていた。
父は、この村で、息子に何を見付けてほしかったのか、それ・・を探す手掛かりすら掴めない。
まさか、この平穏さが、父の言っていたそれ・・なのだとは、氷河には思えなかった。

「そういえば、まだ、この鳥居をくぐったことがない」
それまでいつも村の方に向けていた足を、神社の中に向かわせてみようと氷河が考えたのは、彼がこの村に来て4日目の午後だった。

黒い部分が少なく、ほとんど白色に見える御影石でできた石鳥居。
高さは7、8メートルほどで、神社の名を記した額はなく、祀っている神もわからない。
氷河が、そちらの方に歩を進めかけた時、鳥居に続く30段ほどの石の階段を、結構な勢いで駆けあがってくる人影があった。

それは、氷河を最初にこの神社に案内してきてくれた村長で、彼は、ほんの数メートル脇に逸れた場所に立っていた氷河の姿に気付いた様子もなく、険しい顔をして鳥居を見あげると、そのまま境内の中に入っていった。

この村に来てから、瞬以外の人間の、穏やかでない表情を見るのは、氷河はそれが初めてだった。
いつも悟りを開いた仏像のような顔をしている男が珍しいこともあるものだと、氷河の中に俄然好奇心が湧いてくる。

境内の中央参道を進む村長を、西の林の側から眺める格好で、氷河はその神域に入った。

「お待ちしていました」
驚いたことに、神殿の正面入り口で村長を迎えたのは、純白の巫女装束を身に着けた瞬だった。





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