拝殿をやり過ごして、二人は神殿に入っていった。
神殿の間口は4メートル、奥行きは6メートルほどあったろうか。
注連縄しめなわで飾られた正面奥の神棚には、ご神体らしい鏡が置かれている。
和紙でできた紙垂しでの影が、その鏡に映っているのが見えた。
少し手前に、燈明とうみょうが二つ。
瞬がご神体に背を向けて座したところを見ると、彼は今は神官としてその場にいるらしかった。

春の日の午後3時過ぎ。
氷河が立つ庭には陽の光が溢れ、それは眩しいほどだったが、神殿の中は薄暗く、どこか寒々としている。

氷河は、神殿の扉が閉じられることを懸念したが、そうはならなかった。
神の前で行なわれる儀式を盗み見る不敬の者などいるはずがないという思い込みがあるのか、あるいは、そういう手筈になっているのか、もしかしたら、その儀式自体が開かれた場で行なわれるべきこととされているのかもしれない。

神域の奥宮には、鳥の鳴き声すらしない。
神殿には、神官である瞬と村長しかいなかった。
そして、庭の木立ちの中に紛れ立つ、招かれざる客である氷河だけしか。





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