それからも瞬は、幾人もの村人たちの罪を喰い続けていた。 それをやめた時、瞬は死ぬしかない──あるいは、死ぬ時にだけ罪喰いでいることをやめられる──のだから、瞬にしてみれば、それは仕方のないことだったのだろう。 瞬は、罪にまみれても『生きていたい』のだから。 瞬は時々吐いていた。 ろくに食事も摂っていないだから、吐くものはほとんどないのである。 だが、それでも、瞬は吐かずにいられなかったのだろう。 そうすることで少しでも自分の中の汚れを身体の内から減らすことができるような錯覚に、瞬は囚われているのかもしれなかった。 氷河は、そんな瞬が痛々しくてならなかったのである。 この村の外でなら、これほど美しく聡明な少年は、人に羨まれる存在でいられることだろう。 だというのに、瞬は、この異様な村の中で、 「大丈夫か? 横になった方がよくないか」 氷河がそんな言葉をかけると、瞬は、一瞬きょとんとした顔になった。 それから、小さく、縦にとも横にともなく首を振る。 「……はい、いいえ」 もしかしたら瞬は、人にその身を心配されたことすらなかったのかもしれなかった。 そんな生活を、何不自由ない生活と言ってしまっていいものだろうか。 確かに飢えることはない。 着るものに不自由することも、眠る場所に困ることもない。 だが、それは、“幸福”とは全く縁のない生活だった。 生気のない白い頬。 あまり表情もなく、滅多に感情を表に出さず、瞬は痛々しいほどに細く頼りないうなじをしていた。 「大丈夫です。今日はちょっと長湯しすぎたの。それだけですから。もう平気」 人に気遣われたことのない瞬が、人を気遣う術を知っていることが、氷河はむしろ悲しかった。 「馬鹿みたいですね……。いくら身体を洗ったって、罪は消えないのに。僕が食べた罪は、僕の体の中にたまって澱んで染みついて──」 泣くこともできないらしい瞬を、氷河は無言で見詰めた。 瞬が、その視線に戸惑ったように、無理に薄い笑みを作る。 それから、瞬は言った。 「あなたも、僕をご所望ですか? あなたが罪喰いの儀式に臨んだことを知ったら、村中の人間が安心しますよ。これで、あなたも自分たちの仲間だと」 おそらく、それは冗談のつもりだった──に違いない。 「──明日にでも」 という氷河の返答を聞くと、瞬は大きな衝撃を受けたように肩を強張らせ、瞳を見開いた。 氷河の言葉は、瞬には思いがけない──そして、決して聞きたくない言葉だったのだろう。 それでも瞬は──罪喰いの瞬は──悲しげな目をして、 「はい」 と小さく頷いた。 |