氷河は、瞬が身に着けていた白い巫女の装束を剥ぎ取り、それを寝具の代わりにした。
氷河の目には、瞬の言う罪も汚れも映らなかった。

瞬は綺麗だった。
彼の前にはただ、誰にも触れられたことのない綺麗な肢体があるだけだった。

「いや……きたない……よごれる……駄目……だめ、ああ……!」
瞬は、温もりに飢えた綺麗で可愛らしい小動物だった。

瞬は本当に、人に触れられた経験がないらしい。
氷河に触れられるたびに、瞬は、頬も指も、その柔らかい髪をさえ、臆病に震わせてみせた。

氷河がどこに触れても、瞬の肌は、他人に触れられるその感触に震えながら歓喜していた。
指や頬でさえ、そうなのである。普段衣服で覆われている部分に触れられることは、瞬には並大抵の衝撃ではないらしい。
針に刺される痛みにも似た感覚に、瞬は支配されているようだった。
空気が音を伝えるように、その痛みは瞬の全身に広がり、共鳴し、やがて瞬の身体は熱を帯びてくる。

母親に触れられた記憶すら、瞬の中にはもう残っていないらしい。
人との接触に不慣れな瞬は、欲情を誘発する部分に触れられた途端、恐怖の混じった細い悲鳴を洩らした。

「開いて、見せろ。おまえの身体のどこにも罪や汚れがないことを確かめてやるから」
ぴったりと閉じている瞬の脚を、氷河は無理矢理こじ開けた。

「ああ……っ!」
瞬の声音に、絶望の響きが混じる。
氷河は、だが、それを聞こえない振りをした。

瞬の身体を強張らせているのは、羞恥心ではないようだった。
瞬は、氷河に開かされることで、自分の身体の中から溢れ出すかもしれない罪を恐れていた。
瞬の恐れを取り除くため、氷河はすぐに瞬の身体の中心に唇で触れた。

「あ……あ、そんな……」
瞬は、熱くなっていく自身の身体に戸惑い、自分がどうすればいいのかもわかっていないようだった。

瞬の身体をまさぐりながら、氷河は瞬の耳許に唇を寄せていった。
「俺の名を呼んでいればいい」
「あ……?」
「氷河だ」
「ひょう……が……氷河……ああっ!」
やっと自分のすべきことがわかったとでも言うかのように、瞬の唇が、自分を抱いている男の名を漏らし始める。

瞬の中にある罪を怖れていないことを知らせるため、否、瞬は最初から汚れてなどいないのだということを知らせるため、氷河は瞬のありとあらゆるところに触れ、愛撫し、そして舐めた。
最後には、瞬の身体の内側まで。

瞬の内側は、ひどく熱くなっていた。
熱を帯び、今にも溶け出してしまいそうなほどに。
そのいちばん奥にまで到達できるであろう部位を、瞬の中にゆっくりと刺し入れる。
あまり乱暴にすると、瞬の気が違ってしまうのではないかと懸念しながら。

「あああああ……っ!」
瞬の声は、初めて体内に受け入れるものに恐怖しているというのに、その内部は熱くやわらかく氷河を包み、絡みついてくる。
その熱と蠢きが、氷河に低い声を漏らさせた。

「おまえのどこにも、罪の跡などない。おまえは汚れていない。綺麗だ」
氷河が掠れた声でその事実を瞬に知らせると、彼の下で、瞬がかぶりを横に振る。

氷河はそんな瞬の髪を撫で、口中の舌を捕らえ、瞬の更に奥深くまで身体を進めた。
「おまえの中だって、気持ちいいだけだ」
「ああ……ん!」
瞬の喉からはもう、甘い声しか出てこない。

「あ……あ、氷河……でも、僕は……僕は……氷河……ああ……!」
「おまえはどうした」
その先の言葉を言うことは、瞬にはもうできないことを知っていながら、氷河は瞬に尋ねた。
同時に、これ以上はないほど深く、瞬の中の肉を抉る。
「あああああっ!」

瞬の中には既に、正気の部分は残っていないようだった。
氷河は、自分自身を怖れることを忘れてしまった瞬を幾度も貫いた。
それは罪ではなく、汚れではなく、ただ人間として当然の欲望だと思っている氷河には、そうしないことの方が罪悪だったのである。





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