「俺は汚れたと思うか」 氷河には、瞬が人肌の温もりに飢えていることがわかっていた。 だから彼は、終わってからも、瞬を離さなかった。 裸の瞬の身体を自分の上に引き上げ、抱きしめたままで、瞬に尋ねる。 そんな態勢をとらされることに戸惑っているらしい瞬が、それでもその戸惑いを振り払って、氷河の瞳を覗き込む。 そして、氷河の胸の上で、瞬は首を横に振った。 「綺麗なままです」 「なら、おまえも汚れてなどいないんだ」 それが真実だろう?──と問い掛けるように囁いた氷河に、瞬がまた小さく首を左右に振る。 「羨ましい……。汚れない人、汚れを知らない人……。僕は──そんなふうにはなれない」 「おまえが汚れているというのは、ただの思い込みだ」 「かもしれません。でも──」 瞬は、自分の思うところを正直に告げることで、氷河に突き放されてしまうことを怖れているようだった。 だが、それでも瞬は言葉を続けた。 「ある人は自分が汚れていると思い、ある人は自分を清らかな人間だと思う。それが全てだと思いませんか」 「自覚のない 間違った考えに囚われているのは瞬の方なのだから、反論の言葉はいくらでも出てくる。 氷河にそう言われてしまった瞬は、泣きそうな顔になった。 「氷河は健全すぎて、清潔すぎる……。氷河は、この村を早く出た方がいい。僕と罪喰いの儀式をしたことを村の人たちに知られる前に」 これも罪喰いの儀式だったのか──と、氷河は内心で苦笑した。 随分と甘い味のする罪だった、と。 「その時には、おまえを連れて行く」 「無理です。村の者たちが、僕を村の外に出してくれるはずがありません。僕は、この村にある罪も憎しみも全てを知っている。僕が食べた罪の中には、戦後の混乱期に村の人たちが犯した殺人の罪もあるんです。僕がこの村を出ようとしたら、秘密の漏洩を怖れる村の人たちに殺されるだけです」 たとえ瞬の懸念が現実のものになろうとも、氷河は、同じ甘い果実を共に味わった相手を今更手放す気にはなれなかった。 「連れて行く」 「僕を連れ出そうとすれば、氷河も殺されます」 「連れていく」 「そんなこと……できるわけない……」 強硬に言い張る氷河の瞳を悲しげに見詰め、瞬は氷河の頬の上にぽろりと一粒 涙を落とした。 「俺はおまえを離さない」 綺麗な涙を散らす瞬のために、微笑を作る。 震え怯える瞬の唇にキスをして、氷河はもう一度強く瞬を抱きしめた。 |