氷河と瞬は、それからは毎晩、甘い香りのする罪を味わう二人だけの儀式を続けた。
瞬はいつも不安そうで、氷河と身体を交えることを渋ることもあった。
だが、それはあくまでも氷河の身が汚れることを怖れるせいで、瞬自身が氷河に触れられることを切望しているのは疑いようのない事実だった。
だから、氷河はいつも瞬の躊躇を一蹴した。

「あなたの罪は僕のものです。あなたの清廉潔白を保つために、僕があなたの罪をこの身に負います」
それが儀式の進行に定められた口上だからではなく、心からそれを願って、瞬は毎夜その言葉を繰り返す。

そのたびに、もうその台詞は聞き飽きたと言わんばかりにせっかちに、氷河は瞬を抱きしめた。
「罪だけじゃない、俺の全部がおまえのものだ」
そして、氷河に触れられることへの歓喜に震えている瞬に尋ねる。
「おまえは?」
「あ……」
「おまえも俺のものだと言わない限り、この先をしてやらない」
「でも、僕は汚れて──」

頑なに罪喰いでいたがる瞬に、わざと機嫌を損ねた振りをして、重ねていた身体を瞬の上から引き離す。
途端に、瞬は絶望的な悲鳴をあげて、氷河にすがってきた。
「ぼ……僕は氷河のものです。いや、離さないで。僕を嫌わないで。もっと触れて、触って、僕を嫌わないで……!」

それが瞬の唯一の望みだということを、氷河は最初から知っていた。
やっと正直になってくれた瞬の胸に、唇を押し当てる。

「おまえが正直でいさえしたら、俺はおまえの望むことは何でも叶えてやる」
それは恋人同士が交わす常套句ではなく──氷河は心底からそう思っていた。
瞬が望む通りに、その身体に触れ、愛撫して、瞬に甘い吐息を吐き出させる。
触れられることで瞬の心が安らぐなら、瞬の身体を切り開き、震えるその心臓に口付けてやりたいとさえ、氷河は思った。

さすがにそれは無理なので、代わりに深く瞬の内を抉る。
表層だけでなく、これまで喰ってきた罪で満ちているはずの身体の内にまで、ためらいもなく触れてもらえることに、瞬は歓喜し、その歓喜に酔う。

そんな夜を、氷河と瞬は重ねていた。





【次頁】