「この村を出るぞ。今すぐに」 事態が切迫していることを悟って、氷河は、自分の腕の中で震え出した瞬に告げた。 「おまえがおまえなりの答えを出すまでと悠長なことを考えていて、時機を逸した感もあるが、何事も手遅れということはないだろう」 「そ……そんなこと、できるはずが……」 「村人たちの罪をおまえが俺に漏らしていないと、どうやって証を立てる気だ。へたをすると、おまえはこの村の奴等に嬲り殺しにされるぞ」 言われなくても、瞬にもそれはわかっていた。 だが、瞬は、生まれてこの方、ただの一度もこの村の外に出たことがないのである。 身の危険が目前に迫っている今この時にも、瞬は見知らぬ外の世界に出ていくことが恐かった。 いつもいつも──その日が訪れることを夢見ていたというのに。 「生きるために罪喰いになったのだと言ったろう。生きたいのなら、ここを出るんだ」 その決意ができないでいる瞬の両腕を、氷河が強く掴み、揺さぶる。 「人は誰でも、自分の中にある醜いものに怯え生きている。それが普通だ。当たり前のことなんだ。この村の奴等もそんなふうに生きていくべきだ。おまえも!」 「あ……」 「そんなふうに──俺と生きてくれ」 「氷河……」 自由を夢見ながら、一生自分はこの村を離れられないのだと諦めていた“その日”、だった。 だが、“その日”は訪れた。 たった今。 瞬が自由になれる日──が。 今ここで勇気を奮い起こさなければ、瞬は“生きる”自由をさえ奪われることになる。 そして、氷河までが、瞬の優柔不断の犠牲者になるのだ。 それだけは何としても避けなければならない。 瞬は頷いた 瞬は、氷河と共に生きたかった。 |