道俣神ちまたのかみが、あと200メートル先にあったなら、氷河と瞬は村人たちに捕らえられ、リンチに合っていたかもしれなかった。
道俣神をやり過ごすと、そこは迷信や妄執とは縁のない外の世界である。
氷河は、瞬を中に押し込んだ車を、弾丸のような勢いで急発進させた。

バックミラーに、松明を持った鬼たちの姿が映る。
罪喰いが手の届かないところに逃げ去ったことを知った彼等は、手にしていた松明を投げ捨てて、その場を阿鼻叫喚で埋め尽くしているようだった。

氷河の父親のような一介の村人ならともかく、村人たち罪の全てを知っている罪喰いが逃げたのである。

罪喰いが罪喰いでなくなった時、罪喰いが喰った罪は、どこに帰っていくのか。
彼等を襲った狂気の原因は、自らの罪のために地獄に堕とされることへの恐怖だったのかもしれない。





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