瞬と氷河が、N県の山間部で、数百ヘクタールを焼く山火事が発生したというニュースを聞いたのは、東京に着いてからだった。
丸一ヶ月雨が降っておらず山の木々が乾燥していたことと、折からの強い南風が、火のまわりを速めたということだった。

被災地の中にたったひとつあったはずの村に、自衛隊と消防団の救助が入ったが、生存者は一人として見付からなかったらしい。
まるで迫りくる炎から誰も逃げようとしなかったかのように、大火は村をひとつ嘗め尽くしてしまったのである。

瞬は、自らの自由の代償に、初めて自分自身の罪を負った。
死んでいった者たちの中には、罪喰いの儀式に臨んだこともない子供もいたのである。

「おまえが責任を感じる気持ちはわかるが、おまえのせいじゃない」
「僕のせいです」
法は瞬を裁けないという事実は、慰めにもならなかった。

「あれがおまえのせいなら、それは俺のせいでもある」
「…………」

瞬は、自分の罪というものに慣れていなかった。
瞬が初めて負った瞬自身の罪はあまりに大きすぎ、その罪を贖うことのできる日が来ることがあろうとは、瞬にはどうしても思えなかった。

いつまでも沈黙している瞬に、氷河が言う。
「なら、責任をとって死ぬか?」
「氷河……」
「俺を残して、死ぬか?」
「…………」

そんなことができるわけがない。
この罪を氷河ひとりに喰わせることなど。
瞬は、俯いたままで、小さく首を横に振った。

「二人で耐えていこう。できるな?」
瞬は、唇を噛んで頷き、そして、顔をあげた。





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