「まさか……」
懺悔のように告白されたことを氷河が容易に信じられなかったのは 当然のことだったろう。
それは尋常のことではない――“よくあること”ではない。
人は、自分以外の人間に愛され求められることを喜ぶ存在には違いないだろうが、ここまで激しい執着を誰が望むだろう。

「ごめんなさい……氷河」
「瞬、しかし、そんなことは信じられな――」
思いがけないことを告げられて当惑する氷河の様を見て、瞬は眉根を寄せた。
今は こうして戸惑うだけの氷河が、それを事実と認めざるを得なくなった時、氷河のこの青い瞳は、彼の意思を捻じ伏せ操ろうとした者を責めるようになるのだろうか?
憎み、軽蔑するようになるのだろうか――?
すべての非が自分にあることはわかっていたが、瞬は、そうなることが恐かった。
幼い頃から好きでたまらなかった彼の青い瞳が、自分への憎悪だけでできたものになること、その瞳に見詰められること――に、瞬は耐えられそうになかった。

(見るな……僕を見るな……!)
罪を犯したのは自分なのだと、氷河には何の非もないのだと わかっていても、そう 強く望まずにはいられない。
そして、瞬が強くそう願った時、“氷河”の表情が豹変した。
「やっとが誰なのかわかったようだな、瞬」
氷河の声で、“彼”はそう言った。
「あ……」
そう・・でなければいい、自分にそんなことをする力はないはずだ――と、この期に及んでもまだ 心のどこかで期待していた自分自身に、瞬は気付いた。
だが、目の前で氷河が“彼”に変わる様を見せつけられてしまっては、もはや疑うことはできない。
“氷河”を“彼”にしたのは、他の誰でもない瞬自身だったのだ。

瞬は自分が恐かった。
こうまでして氷河を自分のものにしたいと願っている自分自身に愕然とした。
そして、それ以上に瞬は、自分の唇を突いて出てきた言葉に打ちのめされたのである。
「氷河……僕を嫌いにならないで。怒らないで。氷河は僕を好きでしょう?」
これは本当に自分が言っている言葉なのかと思う。
「とても」
氷河の声が作る返事。
それすらも、自分が氷河に言わせている言葉なのだろうか――と。

こんなことを自分は望んでいない。そう思うのに、“瞬”に操られた“氷河”は“瞬”が望む通りに瞬を抱きしめてくる。
“瞬”がそうであればいいと望む通りに、瞬に優しく口付けてくる。
“瞬”に操られた氷河が、“瞬”が望む通りに慈しむように細やかな愛撫を始め、それは徐々に激しく大胆になり、“瞬”が望んだ瞬間に、“瞬”に操られて猛ったものが瞬の中に入ってくる。
「あああああ……っ!」
望んでいたのは こんな氷河ではなかったはずだと思うのに、瞬は彼を離すことができなかった。
「ごめんなさい、ごめんなさい、氷河……ああ……!」

氷河の律動によって身体を大きく揺さぶられながら、細胞まで溶け合うような歓喜に 瞬は我を失っていた。
自分が犯している罪の重さに気が狂ってしまいそうなほど、瞬は氷河に求められることに陶酔していた。
これから一秒も欠けることなく永遠に彼を支配し続けるのでなければ、いつかは この罪から醒めた氷河に 軽蔑の色をたたえた青い瞳で見据えられることになる。
いくら この情念が強くても、一生彼を支配し続けることは不可能だろう。
ならば、これは今だけのことで、これが最後なのだ。
だから、今この時が永遠に続いてほしい。
これまでのどんな一瞬よりも強くそう願いながら、瞬は氷河に犯され続けた。





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