「……だが、心配なんだ。おまえに救われた者が、俺と同じように、おまえを欲しがるようになるんじゃないかと……」

瞬が、薔薇の香りのする石の階段を双魚宮に向かって下りていく様子を眺めながら、氷河はその後ろ姿に低く呟いた。


氷河の不安の根拠は、もしかしたら、瞬の“強さ”が優しさでできていることなのかもしれなかった。
それは、確かに、平時であれば“強さ”たりえるだろう。

だが、世の中には、優しさや思い遣りだけでは解決できないことがあり、それらのものが通じない――受け入れられない――種類の人間というものがいる。

優しさに追い詰められる類の人間も存在するのだ。


しかし、他に差し延べられる手のない者に、そんなことができるはずがないという思いも、氷河の中にはあった。


アフロディーテは、どちらのタイプの男なのだろう。

氷河の不安は、結局は、アフロディーテという男がわかっていないことに起因しているのかもしれなかった。





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