「あなたの生きる目的は何? 生きていて、何か楽しいことがある?」

アフロディーテは無言だった。
十二宮線以前の彼なら、たとえそれが間違った(と第三者が判断する)ことでも、彼には、生きる目的があったに違いないのに。

「普通は何かあるものでしょう。生きる目的なんて大層なものじゃなくても、そうしていると楽しいこととか、考えてると嬉しくなることとか、思い浮かべただけで幸せな気持ちになれる人とか」

そう告げた瞬の目許がほんのりと朱を帯びる。
アフロディーテは不愉快そうに舌打ちをした。

「おいしいものを食べたいとか、バラが咲くのが嬉しいとか、そんな他愛のないことでもいいのに、今のあなたにはそんなことさえもなくて」

それ以上子供のたわ言など聞いていられないと言わんばかりに苛立った様子で、アフロディーテは、瞬の言葉を遮った。

「自分が強いということを考えることが好きだった。それを君が奪った」
「生きる目的は――僕への復讐でもいいです」
「…………」

「そう思うことさえできないの」

そう思うこともできないほどに彼を追い詰めた自分に、瞬は責任を感じていたのだ。
彼をそんなふうに変えてしまったのは、自分自身の未熟のせいだったのだと、ある部分では後悔もしていた。


「だから……あなたが、代わりのものを見付けるまで、僕が気になるから見ていたいの。同情とか、勝った者の高慢とかじゃないと思う。僕が気になるだけなの」


瞬がそういう言い方をしたのは、アフロディーテのプライドを傷付けないためだった。
自分のおせっかいに、“同情”という言葉につながる意味合いを持たせないため。

が、アフロディーテは不幸にして、瞬がわざとそう言っているのだということがわからないほど愚鈍でもなく――だから、なおさら彼は、瞬の気遣いに腹を立てることになるのである。


今は平和になってしまった双魚宮では、毎日、こんな問答が繰り返されていた。





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