「来なくていい!」 それまで、無理に事務的な口調を保っていた瞬が、突然鋭い声をあげる。 「来ないでほしい……」 だが、それはすぐに力ない呟きに変わった。 瞬は、全てを諦めてしまっているように見えた。 自分が生け贄だということを甘んじて受け入れているようにも見える。 一見すれば、確かにアベルは瞬を支配していた。 「本当は憎いんだろう? 君にこんなことを強いた私も、君を救いに来ない仲間たちも も、アテナも」 「これは僕が自分で選んだことだもの……ああ…っ!」 無理に身体を折り曲げられて、瞬が溜め息に似た声を漏らす。 しかし、それは悲鳴ではない。 拒絶の色も少ない。 自分が神に逆らえないことを、瞬は自覚している。 それでも。 瞬は自分のものになったのだと実感することが、アベルにはできなかった。 「誰も恨まないと言い張るわけか。頑固なほど、綺麗なままでいたいんだな、君は」 どうしたら、この頑なな心を汚せるのかと考えてから、そもそも自分はそれを望んでいるのかと自問する。 そして、アベルは、そんなことを決して望んではいない自分自身を、そこに見い出していた。 瞬の身体に自身を収める。 強くやわらかく受け止める瞬の中に溺れてしまいそうになって、アベルは、無理に自分の身体を瞬から引き離した。 瞬の意思とは関係のない瞬の声がその無体を責め、その声に惹かれるようにまた、アベルは瞬の中に我が身を沈め――そんな葛藤と争いを繰り返した果てに、神の欲望が瞬の中に解放される。 初めてのことではない。 これまで、たくさんの人間と神と繰り返してきた行為。 瞬の身体がどれほど優れているものだとしても、そんなことで、これほどの歓喜を覚えることがあるはずがない。 アベルには、その理由がわからなかった。 だが、自分が瞬を手離せなくなっていることだけはわかっていたし、彼は、そうするつもりは毫ほどにもなかった。 |